コートを羽織らないと寒くて外にも出られないある冬の日。



「悪いんだけど、これ塚原の家に届けてくれるか」



生徒会の先生にそんな事を言われた。
塚原くんが三日前から風邪で休んでるから届けるのもわかるんだけど、どうして私なんだろう…ってそんな疑問を抱きながらプリントを受け取った。
そんな疑問に気付いてくれたのかはわからないけど、先生が事情を説明してくれる。
松岡くんと悠太くん、それから珍しく祐希くんも部活で、橘くんは一人だからって先に帰って見当たらないらしい。
部活後に届けてもらうのもいいけど日が落ちるのが早いこの冬、なるべく早い時間の方がいいだろう、だって。



「それにむむむ、塚原と付き合ってるんだろ?」



ニヤッと笑って見せた先生に一瞬固まってしまう。
いや、それ違います…そんな否定をしても豪快に笑うだけで分かってくれたかどうか分からない。
まだ誤解とけてないんだなぁって思うと、塚原くんに申し訳ない気持ちになった。

そして私は今、塚原くんの家の前にいる、わけなんだけど。



「あら要くんに?寒いでしょうごめんねぇ、良かったら上がっていく?顔でも見ていく?要くん喜んでくれるわよ!」

「え、いや、あの…あの、」



聞く耳持たずとはこの事だろうか。
るんるんっていう効果音が付きそうな勢いで私を招き入れる、このお母さんが塚原くんのお母さん。
似てるような似てないような。
ああでも、こんな可愛いお母さん塚原くんのお母さんって、わかるような気もする。



「…なんかごめんね」

「いやそれこっちの台詞」



塚原くんの部屋に連れてこられて、床じゃあれだからってベッドに座らせてもらっている。
顔を見る限り元気そうで、本人も今日は大事をとって休んでるだけだから心配すんなとそう言った。

塚原くんの部屋は必要なもの以外は置いてないようで、すごくシンプルで彼らしい。
…あんまりジロジロ見るのも悪いよね、と思いながら自粛。



「あらぁもうゆっくりして行ってね!ケーキも持ってくるし、あ、そうだ良かったら夕御飯も食べていく?」

「は?!何言ってんだよ!」

「いいじゃない!せっくか来てくれたんだからねぇ?お母さん気合い入っちゃうわ〜要くんってば彼女が出来たこと隠してるんだからっ」

「いっ…や付き合ってねーから!!」



塚原くんの叫びが届くことはなく、パタンと閉じられた部屋の扉。
一瞬流れる気まずい空気。
…なんだけど、私は気まずさよりもお母さんのキャラクターに笑ってしまう。
塚原くんは恥ずかしそうに頭をポリポリ掻いて、お母さんが持ってきてくれたジュースを差し出してくれた。



「楽しいお母さんだね」

「普通に恥ずかしいわ」

「あれが塚原ママ」

「何だよ塚原ママって…」



ポスン、と私の隣に腰掛けた塚原くんはジュースを飲みながらお母さんが持ってきてくれたクッキーを食べる。
差し出してくれたお皿から私も一枚。
そんなお母さんにはいつも困らされているらしく、盛大なため息を吐きながら困った塚原ママの話を聞かせてくれる。
仲いいんだねっていうと全力で否定されたけど、それすら微笑ましい。



「…どうする?」

「……?」

「いや、夕飯…食ってくなら作ると思うけど……つーかもう作ってるかもしんねーけど」

「…あ、あれ本気だったの?」

「そういう人なんだよ」



また困ったように頭を掻き、その顔は少し赤くなっているようにも見える。
本当に可愛い親子だなぁと思うとやっぱり私の頬は緩みっぱなし。
じゃあせっかくだから、とお母さんに連絡すれば案の定「彼氏できたの?」なんて言われたけど、塚原ママの作ったご飯はすごく美味しかった。


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