学校が終わる。
今日はこれから特にすることも無いから、とりあえず図書館で借りていた本を返して新しい本を借りた。
それからすぐに学校を出る。
校門には私と同じように家に帰る生徒がたくさんいて、流れに乗って歩く。
携帯を開いてみたりするけど、1人の帰り道は何だか少し寂しい。
いつも1人だけど、改めて考えちゃうとそんな気がしてくる。
やることはないけどサイトを巡ったり、メールを読み返してみたり。
(……あ、雨)
携帯の画面に落ちてきた水滴。
空を見上げれば、薄暗い雲が空の一面を覆っている。
ポツポツ、降ってきた雨は髪や制服に滲んでいく。
これくらいの雨なら大丈夫かな…なんて。
そんな思考は、その直後にバケツをひっくり返したみたいに降りだした雨によって掻き消される。
制服がピッタリと体にくっついて、鞄もスカートも靴下もどんどん色濃くなっていく。
さすがにやばい、と足を速めれば、どこからか私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
辺りを見渡すも特に誰もいなくて、気のせいだと結論付けて再び足を進めようとしたとき。
「むむむさんこっち」
引っ張られた腕により、足がそちらに方向を変える。
何事かと私の腕を引く主を見れば、色素の薄い髪と綺麗な横顔が見えた。
「急に降ってきましたね」
「ね、ほんと、もう、水浸し」
小さなレストランの小さな屋根での雨宿り。
周りにあるコンビニや本屋の屋根の下にもたくさんの人たちが雨宿りをしている。
私の腕を引いた悠太くんも、私と同じくらい水浸しになっていた。
タオルとか持ってれば良かった、なんて思うけど鞄に入ってるのはハンドタオルだけ。
色濃くなっている鞄は中にまで水が染み込んで、ハンドタオルすらじっとりしている。
小さな屋根の下に並ぶから、どうしても距離は縮まってしまう。
少し動いたら肩がぶつかってしまいそうで、でも離れたら濡れちゃって、肩をすぼめてその場に縮こまる。
ここまで濡れてるならもう別にいいような気もするんだけど、せっかく引っ張ってくれたんだから、それはそれで凄く嬉しい。
悠太くんに掴まれた腕がじんわり熱くなるように感じる。
何、話そう。
何か、話した方がいいのかな。
「あ、の…今日は1人?」
「今日は1人です。春は大事な用事があるからって真っ先に帰って、千鶴と祐希は二人で遊ぶって言ってたし要は生徒会で」
「そうなんだ」
「むむむさんも1人ですか」
「あ、うん私いつも1人だよ。岬ちゃんはバイトだし」
ぎこちない会話。
そのまま少しの間が空く。
びしょ濡れの髪の毛からは水が滴って、そのまま制服に染み込んでいく。
帰ってすぐお風呂入らなきゃって思うのと、この雨、止むのかなっていう心配が少し。
あと、気まずいのが、ほんの少し。
「……あ」
いろいろ考えてると、悠太くんが不意にそんな言葉を洩らした。
どうしたの?と隣の彼を見上げれば、その綺麗さに何だか視線を外してしまう。
「雨、止んだみたいです」
見上げた空は、綺麗な青。
さっきのどしゃ降りがまるで嘘みたいなそんな空に、何だか不思議な気持ちになる。
全身ずぶ濡れ、それは変わらないけど。
悠太くんが一歩踏み出す。
…私どうしよう、一緒に、なんて少し図々しいような気がして躊躇いの気持ちが生まれる。
「帰らないんですか」
振り返った悠太くんが、私を見てそう言う。
「え?…や、うん……帰ります」
待ってくれている、のだろうか。
止まったままの彼の隣に早足で駆け寄ると、彼はそれを確認してまたゆっくりと歩き出した。
「送っていきますよ」
せっかくなので、と彼は言う。
雨はもう
降りそうにない
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