「今日塾が終わったら少しお話ししませんか」



そんな風に言われて塾が終わった今、待ち合わせ場所で彼を待つ。待ち合わせ場所とは言ってもそんなお洒落な場所なんかじゃないし、っていうか普通に古い方の男子寮の外。彼が住んでるのがここだからっていう理由はそれだけ。私に気を遣ってくれてあれこれ提案してくれたけど、そこは私が押し切ってここになった。やっぱり、疲れてる彼に気を遣わせるのはなんだか気が引けるし。



「遅くなってごめん、」



慌てて出てきた彼に大丈夫だと言うと、お得意の苦笑いでもう一度謝ってくれた。
塾が終わって、私も彼も制服から私服に着替えた。塾の後だから少し時間は遅いけど、これから所謂“デート”の時間。まだなんとなく慣れない響きがなんとなく照れ臭い。
どこに向かうとか、そんな目的地はない。全寮制の私たちが外出するには許可をもらわなきゃいけないし、許可をもらうにも時間が時間だから今はそれすら叶わない。学校の裏にある古びたベンチ。二人っきりで会うときはだいたい決まってこの場所だ。



「本当は出掛けられたらいいんだけど…こんなのばっかりで、ごめん」



こんな風に謝られるのも、もう何度目になるだろう。本当に申し訳なさそうな表情に、私は笑って大丈夫だよと呟く。このやりとりもお馴染みで、変わらない会話だなぁって思うとなんだか笑えてくる。
彼は同級生で、塾の先生。しっかりした彼ならたくさん知ってるし皆知ってると思う。だけど、だから嬉しい。頼りない彼を見るのがなんだか、嬉しいのだ。
身体を寄せると彼は焦ったような素振りを見せる。慣れてない、そんな仕草が可愛くて笑ってしまうと、頬を染めた彼がギュッと私の手を握った。少し冷たい指先に彼の体温を感じる。



「…私、幸せですよ」

「え、あ……僕は、何もしてあげられていない、ですけど…」

「そんなことないよ。こうやっていられるだけで…なんかもうそれでいいんです」

「…そう、ですか」

「そうなんです」



寄り掛かったまま目を閉じる。すぐ傍にある、彼の体温が心地良い。きゅっと握った彼の大きなが、同じように私をの手を握り返してくれる。これで、いい。



「少し先になると思うけど、今度は二人で出掛けませんか」




抜けない敬語に笑ってしまうと、彼もまた照れ臭そうに笑う。いいですよ楽しみにしてます、と頭を寄せる。頭に感じた彼の重みにまた、私は胸いっぱいに幸せを感じるのだ。


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