好きとか愛してるとか、そんな言葉や態度じゃ伝わらない気持ちがある。そんな想いが、ある。



「愛しのむーちゃん、甘さ控えめの特製ガトーショコラが出来上がったぜ」

「あ…ありがとう」



船から海を眺めるように黄昏る姿に話しかければ、振り向いてフワッと笑顔を浮かべる。皿に乗せたガトーショコラを渡し、俺もその隣に並ぶ。ケーキなんかじゃなくもっと手軽に食えるデザートにすればよかった、なんてそんな少しの後悔は彼女の行動により一瞬で消え去る。添えてあるフォークなんて使わず、彼女はそれを手で掴んで口に運ぶ。



「あ…行儀悪くてごめん…」

「いや構わねェよ、好きなように食えばいいさ」



小さく微笑んだ彼女はまたそれを頬張り始める。美味しいと笑った彼女にハンカチを差し出すと、ごめんねありがとう、そう言って汚れた指先を拭った。
海を眺める彼女を見詰めると、その横顔に視線を奪われる。特別美人な訳でもねェし、特別可愛い訳でもねェ。見た目も性格も普通そのもので、ナミさんやロビンちゃんのように特に目を引くものもない。クールと言うより内気なその性格は、時々本当にそこに居るのかどうか確認しなけりゃ不安になる程。



「綺麗だなァ」

「ん、ほんと。こんな海、見たことない」



海が反射したようにキラキラと輝くその瞳が柔らかく細められる。
普段の俺がナミさんやロビンちゃんにしている愛情表現を、むーちゃんには出来やしない。最初からそうだった。女性というよりまるで妹、そんな存在だったから。今じゃもうそんなもんじゃねェが、そんなの今さら言えやしない。



「……海、ねェ」



言葉にしても伝わらねェ。綺麗なのは海なのか、それとも別の何かなのか。



「あ、イルカだよ」

「イルカ?…じゃねェよありゃ海獣だっ……」



俺の目に映るのは海獣か、海か、それとも――――目の前の彼女なのか。引いた腕が思っていたよりもずっと細く、こりゃ簡単に離しちゃいけねェなァなんて襲いかかってきている海獣を目の前にそんなことを思った。


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