季節は春も近いはずなのに、まだまだ寒いある晴れた日曜日。
今日は一人で買い物にきた。
お母さんのお使いなんだけど、せっかくだからって少し多目にくれたお金で遊んできていいわよって、言ってくれたから足取りは軽い。
(寒いな、)
お使いは最初に終わらせた。
あとは自由にしていいって言ってくれたから、洋服も見たいし雑貨も見たいし、文房具も欲しいなぁなんて思いながら通りにあるお店に立ち寄る。
一人で買い物は少し寂しい気がして、せっかくお金貰ったけどもう帰ろうかなぁなんてことを考える。
マフラーを巻き直して身を縮めてなんとなく携帯を開く。
「…むむむさん?」
呼ばれた声に顔をあげてみる。
私を呼んでいたのかはわからなかったけど、顔をあげてみればお互いに少し驚いた顔。
そこには見慣れた5人がいた。
「うわ偶然!」
「何してんだよ」
「一人で買い物ですか」
なんて、どれに返事すればいいのかわかんないくらい皆が話し掛けてくれる。
休みの日も本当に5人で遊ぶんだ、なんて少し感心しながら取り敢えず皆にうなずいておいた。
「むむむさんもしかして暇してたりする?」
「え…うん、暇、かも」
「よっしじゃあ一緒に見届けようじゃないか!」
「…え、見届け…?」
「取り敢えず映画でも見に行きましょう」
時間がないので、とそう言った悠太くんが私の腕を引いて歩き出した。
わけがわからないまま、引かれるまま歩く。
緊張、してるの私だけなんだろなぁ…そう思うと嬉しいような、ちょっと複雑な気持ち。
少し歩くと悠太くんの手が私の腕から離れて「すいません」と小さく呟いた。
首を横に振って緩く巻かれているマフラーに顔を埋め、そこから少し歩いてに映画館に着いた。
見た映画は、今流行りのドラマが映画化されたものでやっぱり面白かった。
「次はゲームセンターか…」
「お馴染みのデートコースですね」
「お馴染みのデートコースをなんでこのメンバーで歩かなきゃいけねぇんだよ」
塚原くんが大きくため息。
お馴染みのデートコース、そう言った彼らの視線の先には一組の可愛らしいカップル。
もしかして、と思ったことを隣を歩いていた祐希くんに尋ねてみる。
「あの子たち追いかけてるの?」
「…春の弟です」
「……松岡くんって弟さんいたんだ。あんまり似てないんだね」
「髪質とかソックリですよ。冬樹…っていうんですけど最近彼女ができたみたいで」
「いいなぁ、青春って感じだね」
そうですね、って祐希くんは少し間を空けてそう返してくれた。
彼氏とか彼女とか。
私にもいつかそんな日が来るのかなぁなんて、中学生のカップルを見てそんなことを思う。
やっぱり少し複雑な気持ちもあったけど、幸せそうな二人を見ていると私も少し幸せな気持ちになる。
…気がする。
「くっそー…デートっぽいことしやがってええええ!」
その後入ったのは近くのゲームセンターで、松岡くんの弟さんと彼女さんは楽しそうに遊んでる。
ムキーッと羨ましがる橘くんも、そのうち祐希くんと格闘ゲームに没頭。
それを眺める塚原くんと、
「何か見に行きますか」
こうやって私を誘ってくれる悠太くん。
一瞬ポカンとした私は内容を理解して、何だか少し照れながら大きく頷いた。
UFOキャッチャーには可愛い人形や雑貨、お菓子が沢山並んでいるし、太鼓の達人やいわゆる音ゲーと言われるものもいっぱい。
あんまりこういうゲームはしないけど、なんか雰囲気すごく楽しい。
「なんか、気になるものとかありますか」
沢山並ぶUFOキャッチャーの前で私にそんなことを聞いてくれた。
キョロキョロと見渡して、あれもこれも可愛いなぁなんて思いながら目に入ったのは一つのぬいぐるみ。
特別好きなキャラクターとかそんなんじゃないけど、なんか凄く可愛く見える。
お金を入れたのは悠太くんだった。
「どうぞ」
「あ…ありがとう!」
あっという間に取れたそれを私に差し出してくれて、それからどういたしましてと小さく呟く。
嬉しくてテンパっちゃって、凄いね上手いんだね、なんてそんな言葉しか出てこない私に悠太くんはほんの少しだけ表情を緩めてくれたように見えた。
「ちょ、どこ行ってたのさ二人して!早くしないと見失っちゃうよー!」
ゴーゴー!と意気込みも十分な橘くんが先陣を切って歩き出した。
ポケットで震えた携帯を見ればお母さんからで、まだ帰ってこないのってそんな内容。
時計を見てみればもう結構時間が経っていた。
「あ、あの私もうそろそろ帰らなきゃ」
「…そうなんですか」
「えー!これからいいとこなのに!」
引き止めてくれてる皆にごめんね、と。
みんなにバイバイして、右手に持ったままのぬいぐるみをキュッと握り締めながら私は少し急ぎ足で家に向けて歩いた。
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