今日は日直。
日直と言っても実はあんまりやることないんだけど、黒板の隅に小さく並んだ名前に胸は弾む。
“浅羽悠太、むむむむー”
…って。
写メにでも撮っておきたい気持ちもあったけど、さすがに気持ち悪いなぁって思ってそこまではしないけど。



「……あ、ごめん」

「…え?……何が…」

「いや…オレも日直なのに」

「え?あ…いや全然!気にしないで、これくらい何でもないよ」



今日は自習だった数学のプリントを職員室に持っていって、教室に戻ってきたら浅羽くんがそう言った。
呼んでくれれば良かったのに、って言うけど松岡くんと楽しそうに話してるところに邪魔なんて出来ないし、そもそもこれくらいなんてことない。

そんなやり取りをしてると、チャイムが鳴って国語の授業が始まった。
回ってきた音読。
音読ってあんまり得意じゃない。
声が小さいってよく言われるし、それにわざわざ立ち上がって読むのもなんか嫌だと思う。
自分の番を終えてホッと一息。
椅子に座って教科書から顔を上げればそこには浅羽くんの背中があって、間違えなくてよかったって一安心。



「あーむむむさんちょっと待ってまだそこ写してない!」



授業が終わって日直の数少ない仕事である黒板消し。
もういいよありがとーって声がしたから続きを消していく。
溝に溜まったチョークの粉が宙を舞い、上からはまたチョークの粉が降ってきて目を細める。



「大丈夫?」

「……あ…うん大丈夫…」

「オレやるから、いいよ」

「え?…や、いいよ、私も日直だから、」



やらなくていいよって言ってくれる浅羽くんに首をぶんぶん横に振った。
気なんか遣ってくれなくていいのに、って。
浅羽くんは少し考えるように私をじっと見つめてて、やっぱり少し照れてしまう。(かっこいいなぁ浅羽くん)



「じゃあ上の方は任せてください」

「あ、うんお願いします」



軽く腕を伸ばして高い場所を拭き始める浅羽くんを見て、私も下の方を拭いていく。
黒板消しが汚いからあんまり綺麗にはならないんだけど。
左側から拭いた私と、右側が拭いてる浅羽くん。
真ん中で並ぶように拭いてると、上からパラパラと粉が降ってくる。



「あ…ごめん」

「ううん大丈夫だよ」

「や、でも…」



一瞬何だかわからなかったけど、気付いた時には心臓が破裂しそうなくらい跳ね上がる。
浅羽くんの手は私の髪に伸びていて、指先は撫でるように私の髪に触れる。



「え、え…え?」

「粉まみれですよ」



あ、あの恥ずかしいんですけど…って言えなくて、慌てて自分の手で髪に付いたであろう粉を払う。
それからちょっとだけ髪をとかして浅羽くんを見ると、彼はやっぱり感情の読めない表情で私を見てた。



「もうすぐチャイム鳴るよ」



恥ずかしさを掻き消すために話題を変えて手を動かす。
すぐにチャイムが鳴って慌てて席に戻ると、見えた黒板の上下の色の違いが間抜けで、何だかちょっと可笑しく思えた。



触れたゆびさき


(…緊張、したなぁ)


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