「むむむさんに頼んでおいたから大丈夫よ」



茶道部の活動中、そういえば先生に理科準備室の片付けを頼まれていたのだと思い出した。
それは部活が始まって30分程経った頃で、春と十先生に断りを入れて職員室まですみません忘れてましたと謝って返ってきたのが冒頭の言葉だ。


( …むむむさん )


彼女は同じクラスで最近時々話すようになった子で、確かに頼まれたら断れないであろう雰囲気を纏っている。
後でお礼でも言っておかないと、そんな事をぼんやり考えながら職員室を出て茶道室へとゆっくり歩いた。
着物姿はやっぱり目立つ。
たまにすれ違う生徒の視線を感じるが、人の視線はいつからか余り気にしなくなった。

片付けをして制服に着替えてリュックを背負う。
帰りましょうか、と笑いかけてくれる春に申し訳無いが先に帰っててと伝え、気になる部屋へと足を進めた。
やけに静かなそこのドアノブをそっと捻ると、鍵はまだ開いている。
ゆっくり開くと、そこにはじっと動かない彼女の姿があった。
一瞬寝てるのかなとかそんな馬鹿な事を考えたが、振り向いた彼女の表情は驚いたような、困ったような顔をしていた。



「ごめん、部活で忘れてた…」

「や、全部いいよ私なんて部活もしてないし、」



気にしないで、と両手を仰ぐ。
だいぶ綺麗に片付いていたその部屋は、以前入った時とは見違えるほど広い。
実験器具は綺麗に並んでいるし、ホルマリン漬けや模型も不気味だけど背の順に並んでいるし。
あとは床に並んでいる大きめのホルマリン漬けと、並々と水が入れられた水槽。
重くて持てないんだよね、と困ったような笑顔を浮かべた。

リュックを下ろして水槽を持ち上げる。
ずっしり腕にくる、こんな重い物彼女に持てるはずもないだろうし、もし持てたのならオレは彼女の実力を見くびっていたことになるしそれはそれでどうなのだろうと疑問に思ってしまうかもしれない。
もう捨てていいと言ってくれた水を捨て、軽く水槽を洗って置き場所を聞いて棚に押し込んだ。
そして彼女がしゃがみこんだ場所にオレもしゃがみこみ、それを眺める。



「…すごいですねこれ」

「気持ち悪いよねぇ」



ホルマリン漬けにされた動物を見ながら、彼女は本日二度目の微妙な笑顔を浮かべた。



困ったような眉間の皺

(良く見る笑顔、だ)










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連載の主人公って元気に笑うよりも苦笑いとか困ったみたいな笑いが多い気がする。


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