クラスもレベルも違う人を好きになるのは何だか切ないけど、だけど私とは違うからなぁっていう諦めの気持ちもその分大きい。
私なんか彼の中では何でもないんだろうなって、そうわかっちゃうのは悲しいけど。
けど、変な期待しちゃう事もないからそれでもいいと思ってる。
私の名前は知らないかもしれないけど、苗字と存在を知ってくれてるならそれで十分。
前に保健室で苗字呼んでもらったときは体調不良も忘れちゃうくらいドキドキしちゃってたんだから、本当に笑えてしまう。
恋愛に限らずだけど、消極的だなぁって自分で悲しくなることもしょっちゅうだし。



「おはよー!」

「おはよう」



廊下では挨拶が飛び交ってる。
私も友達はいるけどクラス替えの時に離れちゃって、今のクラスにはイマイチ馴染めていないような気がする。
さっきも言った通り消極的な私にはなかなか親友と呼べるような友達も出来なくて、申し訳程度に話し掛けてくれる子とご飯を食べたり。
気を遣って遣われて、そんな空気だから1人のほうが楽なのかもしれないなんて思うこともある。
だけど1人でご飯食べたり、残り者になっちゃうのも嫌で、結局流れに身を任せたまま。
自分が無いと言われればそれまでだけど、やっぱりどうしようもない。



「悠太くんおはよう」



廊下で聞こえたそんな女の子の声に目を向ければ、そこには名前を呼ばれたその人がいる。
笑ったりとかいう表情の変化はないけど、おはようって返してもらえる女の子達が羨ましいと感じてしまう。
なのに自分で話し掛ける勇気なんて私にはなくて。
おはようってそれすら言えないんだから、私って一体どんなチキン野郎なんだろうか。
それに普段関わりもないのにいきなりおはようなんて言われても、きっと彼も困る、と、思うし。

…なんて、自分を誤魔化す為の言い訳ばっかりうまくなる。



「むむむさん」

「あ…おはようございます東先生」

「おはよう。これ昨日図書室に忘れてたみたいだよ」



廊下を歩きながら自分の教室に向かってトボトボ歩いていると、前から東先生が声をかけてくれた。
差し出してくれてたのは漫研の部室の鍵で、こんな大事なもの忘れてたなんてとちょっと反省。
わざわざ届けてくれた先生に頭を下げた。



「大事なものだから気を付けないと」

「すみません…」



下を向いて目に入るのは自分の細くない脚と汚れた上靴で、なんだかちょっと切なさが増した。
チャイム鳴るからと教室に入るように促されて、自分の席である窓際の一番後ろの席に着いた。
先生の意向により席替えは学期毎で一年に三回だけ。
だからこの席で夏までは安泰。



「むむむさん、1時間目は自習だって」

「そうなの?」

「先生が体調不良で遅刻なんだって。一緒にやろう?」



前の席の須藤さんが声を掛けてくれて一緒にプリントを進めていく。
彼女はよくこうやって話し掛けてくれて、一緒にご飯を食べたりするくらい、このクラスでは一番仲がいいと言える子。
私と同じように目立つ子じゃないし控え目な子だけど、そんな彼女だから私も気を許せる部分が大きいのかもしれない。



「かっこいいなぁ悠太くん」



彼女が視線を向けるのは窓から見える校庭で、校庭では1時間目から元気に走り回る男子がいた。
須藤さんは悠太くんを見付けるなりかっこいいと呟き、私も笑いながらそれに同意。
彼女も悠太くんに恋をしている女の子。
浅羽兄弟にそんな感情を抱く女子は少なくないし、私もその中の一人だし。



「同じクラスになりたかったな」



そんな呟きに私はまた誤魔化すみたいに笑って、校庭にいる彼の姿を目で追った。
同じクラスになれなかったこと、確かに少し残念だったけど、私は別に見ているだけでいい。
話したりもしたいけどきっと私なんかには無理だから。
少し切ない気持ちになりながら、プリントやろうよと彼女と自分の視線を校庭から引き戻した。


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