新入部員が3人と、浅羽祐希くんが新しく入った漫画研究部。
だけどみんなが部活に来てくれる事はほとんどなくて、前までと何ら変わらない部室の光景。
松下くんっていう一年生の子はちょくちょく顔出してくれてるけど、部長っていう肩書きの私が漫画とか描けないし詳しくないから何だか申し訳ない。
長袖も段々暑く感じるようになってきた。
ブレザーを脱いで椅子の背もたれにそれを掛け、ユニクロのカーディガンで丁度良い気温。
窓を開けると隣で漫画を描いてる松下くんの原稿が飛んじゃうだろうからそれもしない。(前に一回経験済み)



「どーも」

「ゆ、祐希先輩…!」



たまにこうやって浅羽祐希くんが部活に来てくれることがある。
部員だから当然なんだろうけど、帰宅部状態のこの部活にしたらなんかすごいことだと思う。
去年なんて、私と私を誘ってくれた先輩以外に部活に参加してくれた人はいたっけ?と思っちゃうくらいの状況だった。
…今も変わってないと言えば変わってないんだけど。



「祐希先輩今日はどうしたんですか!?」

「どうしたってオレ部員だし」

「あ、そ、そっか…」



椅子に座っておもむろに広げたのはアニメージャっていう雑誌。
机に肘をついて手に顎を乗せるようにして、ペラペラと雑誌を捲っていく。
絵になるなぁ、と。
思いながらじっと眺めていると祐希くんと目が合って、何と無く慌てて逸らしてしまう。
綺麗だし優雅だし、何だか近寄り難い気がして、こうやって同じ場所にいても会話をする事はあんまりない。
彼も特に話さないし、多分私なんかに興味もないんだろうなって思っちゃうから話し掛けられない。
前に松下くんがいなくて祐希くんと2人っきりになったことがあったけど、なんか緊張しっ放しで「お疲れさま」しか話さなかったことがある。
…もしかして嫌われてるのかも。
と、そうやって悲観的に考えちゃうと余計に話し掛けられなくなっちゃって。
悪循環だ。



「あっ…そうだ僕今日早く帰らなくちゃいけないんでした!」



いそいそと荷物をまとめて、お疲れ様でした!と慌てて去っていく松下くん。
残された部屋には当然私と祐希くんしか残っていない。
彼は特に気にする様子もなくアニメージャを熟読しているようだ。
ちょっとの間その姿を眺めてたけど、なんか申し訳ない気持ちになって私の視線は壁とか段ボールを行ったり来たり。
僅かな気まずさが胸に拡がって、それを誤魔化そうと部屋を見渡していると、目が合って。
咄嗟に逸らしちゃうけど相変わらず彼はじっと私を眺めていた。
どうしていいか分からず視線は相変わらず、誤魔化すみたいに机の原稿を捉えた。



「……」

「……」



み、見てるよね私の事、って確認の為にチラッと見てみるとやっぱり私を見ていて。
恥ずかしいのか緊張してるのか怖いのかもよくわからない感情に私の行き場は無くなっていく。



「オレの名前知ってる?」

「…え?あ……知ってるよ?」

「……ですか」



え、え、なんなんだろう、って頭がそればっかりを考えてしまう。
苦手じゃないし勿論嫌いなんかじゃないんだけど、彼の醸し出す独特の空気には正直にいうとちょっと戸惑ってしまう。
…こういうのがダメなのかなぁ、と。
ぱたっと本を閉じる音がして、これは彼が部室を出ていく合図。



「お疲れさまでした」

「…お疲れさまです」



リュックを背負ってのそっと部室を出ていった。
私ももう部室を出るために窓の鍵を確認してブレザーと鞄を手に取り、部室の扉と鍵を閉めた。
祐希くんに気を遣わせているんだろうなぁって思うと、申し訳なくなってくる。
私がもっと積極的に話し掛けられるような人だったらもっと何か違ってたかもしれないのに。
そう考えながらもどうしようも出来ないっていうのもわかってて、何だか本当に申し訳ないのと同時に悲しくなってきて盛大な溜め息が私から漏れた。


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