雲雀さんお薦めの本は、タイトルどころか内容も横文字で開けた瞬間即断念。
雲雀さんほんとにこれ読んだのかな…って疑問を抱きつつ、私の意志で借りた本を読んだ。
コテコテの恋愛小説。
恋愛や異性関係に疎い私には感動する場面や泣ける場面がわからないまま一冊を読み終えた。
失敗だったのかもしれない。
あの時この本に手を掛けた事が。
そりゃもう色んな意味で。

借りて三日目で本を返却した。

あの時の事を考えると、浮かぶ疑問は数知れず。
まず何で私は彼の存在に気付かなかったんだろうって言うこと。
それから何でわざわざ雲雀さんが私をからかうような事をしたのかって言うこと。
あとは何で私は普通に緊張してたんだっていうこと。

ほとんどは自分に対する疑問だ。



「お薦めありますか」

「お薦め…どんな本がいい?」

「読みやすいのがいいです」



司書のお兄さんにお薦めの本を聞く。
横文字の本を借りた私に、読めた?なんて愚問だろう。
お兄さんは首を横に振る私を見て、小さく笑ってみせた。

お兄さんのお薦めを借りた。
青春物の小説らしい。
勉強する気になれなくて、入学して初めてのサボりを経験してみる。
静かな屋上でのんびり読書。
だけどそれも悪くない。
なんなら気分は最高だ。
開放的だし何より他の人が勉強してるのに自分は屋上で好き勝手本を読んでるんだ!っていう優越感が最高に気持ちいい。



「こんなところで堂々とサボりかい?」



最高に気持ち良、かった。
早速過去形に成り下がる。
振り向かなくても誰だかわかったからだ。
本を捲る手も止まり、恐る恐る見上げると太陽が眩しく反射するそれが目に入って、怯んだ。
あれは彼の武器。
確かトンファーとか言う名で、あれで何十人何百人、若しくはそれ以上の人間を血塗れにしてきたっていう、それ。

向けられた恐怖を初めて知る。
怖くないかもしれないと思った自分を殴り飛ばしてやりたい。
やっぱり怖いに決まってる。

肩をすぼめて痛みを待った。
降ってくるソレにより意識を失うならまぁそれでもいいかもしれない。
だけどもしそこまで行かない攻撃をひたすら向けてくるかもしれない。
噂によると彼はかなりの鬼畜人間らしいから。

しばらく待っても襲い掛かってこない事態を不思議に思い、ちらっと見上げる。
するとトンファーは私の頭のすぐ上にあって、やばいって思って再びぎゅうっと目を閉じた。
だけど聞こえたのは“コツン”とらしくない小さな音と、何かがぶつかったくらいの小さな痛み。
え、おわり?とそっと目を開けると、彼はため息を吐いて私の傍を離れた。
ボーゼンとその背中を眺める。
フェンスに寄り掛って校庭を眺める姿に、不覚にもちょっと見とれてしまった。
揺れる髪とか学ランとか。
揺れる、気持ち、とか。



「…あ、あのどうして、」



殴らなかったんですか、って。
聞こえたのか聞こえてないのか。
いや多分聞こえてた。
私に向けていた学ランを翻し、振り向いた彼はフェンスに背を預けて小さく言葉を吐き出す。



「ただの気紛れだよ」



それとも殴られたかった?とそんな質問に思いっきり首を横に振った。
そんなわけない。
殴られずにすんだのならそれ以上のことはない。

それから特に話す事もなかったけど、彼が屋上を離れたのは次の授業が始まる前だった。
二時間目は見逃せないからね、と半ば脅し的にトンファーをチラつかせた雲雀さん。
二転三転してるけど、やっぱり彼は怖くないのかもしれないって思いながら下の階に続く階段を急いで掛け降りた。



風紀委員長の些細な気紛れ


(なんか青春っぽい?)


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