今日の放課後は暇だったから、図書館に行こうと決めた。
読みたい本はなかったけど、何かタイトルを見て面白いのがあればいいなって思って今は何となく本棚を眺めている。
幾つか気になる本があったから、手にとってペラペラ捲ってみたけど難しかったりエグかったり、私の好みじゃなかったりしてすぐ本棚に戻す。
そんな事を繰り返して三つ目の本棚。
目線の位置にある本を探って、あ、これ聞いたことあるかもって本に目が行く。
そっと手を伸ばしてそれに手を掛ける。
すると、横から伸びてきた手が同じように同じ本に手を掛ける。
ごめんなさい、って呟いて、そこから手を外そうとするけど私の手はびくともしない。
何故なら、隣から伸びてきた手は本ではなく私の手を掴んでいるからだ。
え、え、って焦ってようやく隣にいる人の顔を確認する。
そしてすぐさま後悔した。

何故ならばそこで嘲笑うような笑顔を浮かべて私の手を掴んでいるのは何を隠そうあの雲雀恭弥だったからだ。
ぐぐぐっと手を引いてみるものの、私の手はびくともしない。
手と雲雀さんを何度か往復し、助けを求めるかのように周りを見渡しても、図書室に居る十数人の生徒達は気付かないフリをし続ける。
目が合った子でさえも一瞬で逸らされ、挙げ句顔を本で隠される始末。

え、どうしようパニックだ、パニックなんだけど、ほんとに。



「………あの」

「なんだい?」

「…………あの、」



声を絞りだすもそれが精一杯。
私がいっぱいいっぱい力をこめているのに対して、雲雀さんは涼しげな顔で私を眺めている。
むしろ見下ろしている。
見下されている。

心臓が馬鹿になったんじゃないかってくらい激しく動く。
だけど怖いより何より、緊張が一番大きく心臓を動かしている原因なんだと気付いてる。
だって今、彼を怖いなんて思う気持ちは頭のほんのすみっこにしか存在していないから。
異性慣れしていない私には、今の状況はちょっと否かなりレベルが高すぎる。
雲雀さんから怖いを抜いたら、残るのは綺麗な人っていうソレだけなのだ。(違うかも知れないけど私はそれしか知らない)

必死に力をこめて離れようとするけどそれは適わず、チラ見した雲雀さんは何だか妙に楽しそうに見える。



「あのっ、」

「だから何だい?」

「……手を」

「手を?」

「…離してほしいんですけど」



言った!と思えば帰ってきたのは「どうして?」って言葉で私がびっくりした。
どうして?ってだって、普通に考えれば誰だって離してほしい状況だろう。
雲雀さんかっこいいから、オイシイといえばオイシイ状況なんだけどまずやっぱり意味がわからない。
雲雀さんにとって楽しい、オイシイ状況っていうのは何一つないはずなのに。

読みたいならどうぞって言っても彼の表情は変わらず、それどころか「こんな本に興味はないよ」ってだったら何なんだこの状況は!って内心ちょっと怒ってみる。
言えはしないけど。
しばらく目で訴え掛けてみると、満足したのか本ごと私の手を動かした。
雲雀さんの大きくて温かい手が私から離れ、私の手に残ったのは気になっていた本のみ。



「こっちの本は僕のお薦めだよ」



そう言って彼が乗せたのは、見たことない聞いたことないしかもタイトル横文字で正直読めないし必要以上な重みの本。
二冊を抱えたまましばらくその場に立ち尽くした。
結局あの人は何がしたかったんだろうって考えるけど勿論私にはわかるはずもなくて。
ドキドキする心臓を抑えるように大きく息を吸い込んで、雲雀さんおすすめの本も一緒に借りておいた。



図書室で起きた小さな事件


(正直本なんかどうでもいい)


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