見付けた。
正確には見つけてしまった。
落ちていた。
何故か裏庭に。
風紀委員会の腕章が。
「……」
何も見てない私は知らない。
そう言い聞かせながら通り過ぎようとするけど、チラ見すると目に入ってくる腕章はなんだか寂しげに見える。
2分か3分の葛藤の後、結局拾ってしまうのが私の悪いところなのかもしれない。
雲雀さんが怖いとか言いながら向かっていくのはいつも大体私の方からだ。
実際、自分が思っている程彼の事を恐いとは思っていないのかもしれない。
若しくはなけなしの良心か。
チャイムが聞こえて、ぎゅっと握り締めたそれをブレザーのポケットに突っ込んだ。
この時点で次の授業の遅刻は確定。
否、拾うか拾うまいか悩んでいた時点で既に遅刻は決定していたのかもしれない。
遅れて入ると変に目立った。
謝罪を入れたら許してくれて、低姿勢で自分の席に着いた。
この授業は今まで一度たりとも遅刻したことなかったし、真面目に受けていたのが良くて許してくれてんだろう。
なかなか厳しい先生だから。
授業が終わって掃除も終えて、帰宅時間。
ポケットに入ったままの腕章が気になって、授業も掃除もそれどころじゃなかったんだけど。
それにしても何で落としたんだろうって考えてみる。
腕章を眺めてみると、安全ピンの針はぐにゃっと折れ曲がっている。
だからかって結論はそこ。
渡さなきゃなって思って、ゆっくりゆっくり歩きながら応接室に向かう。
いっそ渡さずに帰ろうかとも思ったけど、それも気が小さい私には無理。
応接室をノックするのに、今回は意外と時間はかからなかった。
だけど返事はない。
…返事が、ない。
キョロキョロしてみても雲雀さんが居る様子はない。
時間もあるし探してみようって校舎をうろうろしてみる。
もしかしたら校舎の巡回とかしてるかもしれないし、…咬み殺してる最中かもしれないし。
一階を見て居なくて、2階に上がってもいなくて、3階に上がっていなかったから諦めて窓の外を見た。
そしたら、居た。
キョロキョロしながら何かを探してるみたいで、その瞬間これだってわかって窓を開けて名前を呼んだ。
一度目で気付いてくれなかったから、二度目はもう少し声を張ってみたけどそれでも気付いてくれなくて、三度目呼ぼうと息を吸ったとき、彼から視線を向けてきた。
どうしていいか悩んで、とりあえずポケットから出した腕章を見せると驚いたように目を見開いた。
それからまたどうしようって考えて、窓を閉めて向かう事にした。
落としてもよかったけど、風に飛ばされて木に引っ掛かりでもしたらたまったもんじゃない。
廊下を小走りして階段を掛け降りて、辿り着いたそこには雲雀さんはいなかった。
あれ?って思ってキョロキョロしていると、どこに居たのか後ろから呼ばれて肩が跳ねる。
わかってたけど雲雀さんがいて、わかってるのに固まってしまうのはもう条件反射のようなものだろう。
「腕章は?持ってきてくれたんじゃないの?」
必要以上に握り締めてたそれの存在を思い出して差し出した。
どーも、と触れた手に思わず反射的に腕を引っ込めてしまう。
不機嫌そうな顔になって、失礼だったかなとか後悔するけど無意識なんだから仕方ない。
気まずくなってちょっと視線を泳がせて、戻った視線はしっかり彼と絡み合う。
わぁかっこいい…じゃなくて。
「まぁいいや、助かったよ」
彼の姿を見て全部解決。
腕を通していない学ランの袖から腕章が落ちたとしても、きっとそれには気付かない。
なるほど、と勝手に解決。
去っていく背中を見つめながら、やっぱり意外と平気かもしれないって思った。
偶然見付けた彼の腕章
(ほらもうあんまり怖くない)
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