あれから私は雲雀さんを見つけてもあからさまに避けることはやめた。
ばれてるならが意味ない。
痛い目に合わされるのも嫌だ。
だから明らかにわからないであろう、例えばすぐ傍に扉があったり曲がり角があったり階段があったりと、ごく自然に避けれる場所に限定して避けるようにしている。

だけど何でかわからないけど、前よりも恐怖心は薄れているような気もしなくもない。
前みたいには怖いと思わなくなってきた。
そりゃ怖いけど、だけどやっぱり実際に危害を加えられたわけじゃないし、その現場は見たけどもう南京錠をかけたわけだから私は何も知らない。
っていうわけで、前よりも恐怖心は確実に薄れている。

…でも避けちゃう辺り、薄れた恐怖心はほんとにちょっとだけなんだろうと思うけど。



「さーて、今日は5枚だよ」



と、原稿用紙を広げて私に言うのは前回も三枚の反省文を書いた彼女。
どうやら今日も遅刻をしたらしい。

前回三枚、今回五枚、次回は花壇の草抜き、その次は……。



「っていうか5枚って。書くことないし」

「すみません反省してますって、原稿用紙5枚分書いてみたら?」

「それいいね!」

「嘘だよ良くないよ…」



本当に書き始めていたその手を止めて、ちゃんとした文章を一緒に考えてあげる。
だけどやっぱり文章にならない。
前回同様、出てくるのは平仮名、単語、必要以上の句読点。
だけどそれでも何も言われなかったんだから、意外とみんなこんな感じなのかもしれない。



「って事で」

「…え、ちょ、っやだよ、」

「お願い私本っ当にあの人苦手なの!見るだけで鳥肌立っちゃうくらい苦手なの!」

「そんな事言われても私も苦手だし…」



最終的には「あんたも一回遅刻してみたらいいのよ!」って、またワケわかんない内容によって私に授けられる。

気が重い。
遅刻したの私じゃないし、どれだけ考えても悪いのは彼女だ。
考えるだけ理不尽だしため息がでる。
何で私なんだ…と、やっぱり応接室の前であと一歩の勇気が出ないまま立ち往生。
前回の20分に比べれば、今はまだ10分程度しか経っていない。
今入れば、前回の20分を遥かに上回る記録になる。
…いや別に記録に挑戦してるわけではないんだけども。



「何か用かい」



ビクッと、もうお馴染みとなりつつある反応をほくそ笑みながら見る雲雀さん。
やっぱり慣れない。
心臓の跳ね方も尋常じゃない。

再び反省文を差し出すと、目を細めて私とそれを見比べる。



「この平仮名句読点だらけの文章何とかならないの?小学生の作文の方が随分マシだよ」

「…スイマセン」



正論だから何も言えず、何故か私が平謝り。
読み終えたのか、それとも読む気も起こらないのかはわからないけどペラペラ捲って確認終了。
あの、それじゃあ、って一歩後ろに足を引く。



「君、暇なら手伝ってほしいんだけど」

「……暇じゃな」

「今まで暇じゃない君を見たことないんだけど、今日はそうじゃないの?」

「……」



何も言えずに首を横に振る私に満足気に頷くと、私を応接室に招き入れた。
え、なんでこうなってんの、ってビクビクしながら入ってドアのすぐ横に立ったまま待機。
こっち来なよまさかそのまま仕事するつもり?なんて言うから首を横に振ってソファーに座った。
応接室のソファーなだけあって、お尻が沈むくらいふかふか。(…お尻が重いわけじゃなくて、ソファーが柔らかいだけ!)

その感触を楽しんでいると、目の前にドサッと重ねられプリントの束。束。…山。
ハンコ押すだけだからと、朱肉と判を渡された。

あとはひたすら押して押して押して、おわる頃にはもう外は暗くなっていた。
そっと後ろを振り返ると、眠たそうにあくびをする雲雀さん。



「おわったの?」



コクンと頷くと、豪華な椅子から立ち上がり私の隣にポスッと座った。
びっくりした。
心臓に悪い。
そんな私の心境も知らず、束で掴んでペラペラ捲りながらハンコを確認している。
それを三回くらい繰り返して、半分程残っていたけどまぁいいよってソファーから立ち上がった。
帰っていいのかなってチラ見してるとまた、あくびをしながら私を見た。



「…お……お疲れ様です…」



精一杯絞りだした声を残して応接室を出た。
こんな事になるならやっぱりあの時意地でも拒否しておけばよかったと、遅すぎる後悔を自分の中で繰り広げた。



本日の収穫は無防備な欠伸姿


(風紀委員って忙しいんだな)


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