中学2年生の頃から少しずつ下がってきた視力。
まだ辛うじて眼鏡は必要ないけど、黒板がかなり見えにくくなってきた。
まだ見えるから大丈夫だけど。
だけど社会の先生の字は例外。
クセが強くて汚い上に小さいから、私じゃなくても読み取るのは至難の業だ。
だからもう諦めてる。
この間雲雀さんに反省文を出してあげたんだからって理由で最近はずっとこの教科のノートを見せてもらってる。

窓際の席だから、暇潰しは専ら校庭見学。
この時間は二年生か一年生が体育をしているから、その元気な姿を眺めながら時間を過ごす。
授業を終えて昼休み、ノートを借りて写していく。
そういえばこの間の分も写してないって気付くと量が多くて昼休みだけじゃ間に合わず、結局放課後まで持ち越し。

30分くらいかけて写し終えた。
提出は来週だったからまだよかったんだけど、どんどんたまってくのも後が疲れる。
友達のノートを机に返しておいて、私もノートをしまって筆箱も鞄に入れて帰る準備。

図書室に寄っていこうかなぁって考えながら廊下を歩いてると、窓の外から何だか生々しい音。
どうしようか迷ったけど、一瞬だけ!と決めて窓から覗き込むとああやっぱり。
やっぱり、その場面だった。

雲雀さんが、群れを、咬み殺している場面。

驚きすぎて声を上げそうになったが、口を押さえてその場にしゃがみこむ。
その前に一瞬、雲雀さんが顔を上げたように見えて尚更怖くなった。
目は合ってないけど、多分バレてもいないと思うけど……わかんないけど。

ドキドキを抑えて身体を動かす。
下を向いて、深呼吸。
周りを見ないようにして、気持ちを落ち着かせながらゆっくり歩く。
何も見てない何も知らない、そう言い聞かせながら以前鍵をかけた記憶にそれを追加して更に鍵。
このさいもう南京錠で構わない。

下駄箱で靴を履き変えて、遠くから歩いてくる人をぼーっと眺める。
卓球の先生かなぁって。
思ってたら。

近づいて来るにつれて速まる心臓。
ジャージだと思ってたのは黒い学ランで。
先生だと思ってたのは



「やぁ」



雲雀さん、とか。

バクバク脈打つ心臓。
言葉が出なくて軽く会釈。
不意に伸びてきた手に反射的に目をぎゅうっと閉じる。
殴られるかと思ったからなんだけど、痛みは一向に訪れない。
恐る恐る、ゆっくり少しずつ目を開けていくと相変わらずのあの視線で私を見てる。
それだけで怖い。
だけど差し出された手と、その指に掴まれていたのは10センチくらいの青色の糸で。



「殴られるとでも思ったのかい?」



無表情でそう告げる雲雀さんに、頷くわけにもいかずあやふやに首を捻って返す。
差し出されたままの青い糸を、雲雀さんの指から一番離れた場所を摘んで受け取った。
そのまま学ランをなびかせながら去っていく雲雀さんの背中を確認して、下駄箱の横に置いてあるゴミ箱にそれを捨てた。



まさかまさかの見間違い


(思い出した)
(卓球の先生のジャージは青色だ)


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