この間遅刻しそうになった日、実は私の友達はガッツリ遅刻をしていたらしい。
今年に入って二回目の遅刻で、反省文3枚を言い渡されたらしい。
書くの手伝ってよ国語得意でしょ!なんて言われて私も考えるのを手伝ってるんだけど、そもそも私は国語が得意だなんて言った記憶はない。
数学や理科よりは出来るかもしれないけど、それでも得意ではない。
原稿用紙に文章を埋めていくのは、私の口から何と無く出たありきたりな反省の言葉たち。
もうしませんとか気を付けますとかごめんなさいすみませんとか、これはもう文章と言うか何というか、単語の集まりというか。
マスを埋めるために漢字はあんまり使わないし、句読点も必要以上に打ってある。
これじゃあ逆に怒られそうだ。
それでも埋まった原稿用紙を満足気に眺めて私に差し出してきた。



「じゃあよろしく!」



颯爽と去っていく彼女。
あんたが遅刻にならなかったからこうなったんだからね!ってもはや意味がわからない。
なにはともあれ分かったのは、私が提出しろということ。
あの雲雀恭弥に渡しに行け、と。

その場に残された私は一瞬この原稿用紙を捨ててやろうかと握り締めた。
だけど出さずに更に怒られるのは彼女で、それはさすがに可哀想っていうかなんていうか。
シワシワになった原稿用紙を伸ばして、ため息。(勿論シワは消えてない)
言っちゃ悪いが彼女を助ける義理なんて私には何もない。
なのに、応接室の前まで来た私ってほんとにいい友達だと思う。



「……」



来たはいいが入れない。
ノックをするのさえ躊躇われる。
…そもそも、私には何の関係もないはずなのに何やってんだろう。
ほんとに。

速まった心臓を落ち着かせるために、一旦応接室の前を離れて近くの廊下をうろうろ。
逆に不審者かもしれない。
行ける!行こう!って決めても応接室の前まで来ると決意は揺らぎ、もうちょっと、あと少ししたら…と伸びていく。
そうして何分が過ぎただろう。
気付けば20分近くもそうしている私は本当に不審者なのかもしれない。

よし今度こそ、とドアをノックしようと手をグーにする。
ここから先。
三回叩くだけ。
そろそろ私だって帰りたい。
これ以上ないくらい速まる心臓を気にしないように、どうせ行かなきゃいけないんだから!と言い聞かせてドアの前にその手を持っていく。



「何してるの」



ビクッと肩が跳ねる。
実際には流れていないが、だらだらと汗が流れるような感覚。
何度か聞いたことある声。
ゆっくり振り返り、人物を確認するとこれ以上ないくらい速まっていたはずの心臓が更に動きを速めた。



「何か用?」

「…あ……こっ…これ、を…」



差し出した不自然にシワシワのそれを見た彼はあからさまに眉間を寄せて内容を確認。



「これ君のじゃないね」

「……友達、の…はい…」



ふーん、って。
一通りあの幼稚な文章に目を通すと、行っていいよってあの目付きで言われた。
顔を見ちゃダメな気がして、目を合わせたらやられちゃう気がして、学ランとかシャツに視線をずらして軽く頭を下げた。
よし帰ろうって身体を反転させる。
そのとき。



「20分もうろうろしてる暇があるなら君にも仕事を与えれば良かったね」



びっくりして振り返ると、その時には既に彼はそこには居なかった。
見られてたのか!っていう何だか妙な恥ずかしさに、その瞬間から私はその場から駆け出していた。



初めてのコミュニケーション


(だったらもっと早くに話し掛けてくれればよかったのに!)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -