私の友人は何を考えていたのだろうか。一度ならず二度までも、まさか、まさか浅羽くんのロッカーに手紙入れちゃうとかありえない。あの時とは多少かもしれないが関係は違っていると思うけど、それだからこそ尚更迷惑な話だ。あの時、浅羽くんは私の存在を知らなかったから、どんなに噂になっても恥ずかしい気持ちはあったけど、でもそれだけ。寂しいとかそんな気持ちは私だけのものだった。今はどうだ、浅羽くんは私の存在を知っている。名前も知ってるし一緒に帰ったこともあるし、友達っていう関係になれた。今回また私が告白してフラれて、そしたら浅羽くんとの友達っていう関係は崩れてしまうかもしれない。浅羽くんは気にしないかもしれないけど、私はそうはいかないと思う。昨日友人に「手紙入れといたから」って言われたときにまぁいいかもしれないなんて思った自分を張り倒してやりたい。いいわけないじゃん、どう考えたって、いいわけないんだよ。



「ほら、早く行かないと」

「他人事だと思ってるでしょ」

「失礼な。むーの為にやってることなんだから」

「心配しなくても覗かないし、あとは二人でなんとかしなさい」



さぁさぁ、と私の背中を押した友人二人の力が私の重い足を無理矢理動かした。向かうはあの場所。嫌な思い出しかないあの場所だ。まだいませんように、嘘、先にいてくれますように、って複雑な気持ち。そんな気持ちのままドキドキして角を曲がる、と、ぼーっとしてる浅羽くんがいて、目が、合った。ああもうどうしよう、何を言えばいいんだろう。気まずいのはわかってたけど、ね。もしかしたら浅羽くんも何と無く気付いてるかもしれないし。…いやでも、別に、友人に言われるがまま告白する必要なんてないのかな。



「ほんとに来たんですね」

「…え、うん」

「むむむさんが書いたやつじゃないでしょ」

「あれ、気付いてたの?」

「字が違ったんで」



ああなるほど…っていうのと、浅羽くんが私の字を知ってくれてるんだっていう嬉しさに胸がドキドキ。どこかで私の字を見てくれたのかなって、考えていくと自分の字の汚さにどうしようもない後悔が生まれた。もっと綺麗な字だったら…なんてどうでもいい事を考えた。そうして訪れた沈黙に気まずさを感じる。告白、なんてするような雰囲気じゃないし。



「なんか…懐かしいですね」

「ああ…うんそうだね」



掘り返してきたのは、意外にも浅羽くんの方だった。前にもあったけど、今みたいに全く同じシチュエーションではなくて、誰かの告白シーンを見たときだった。



「今でも好きですか、俺のこと」



…ボーッと、してた。浅羽くんが言った事を理解したら予想外の言葉すぎて何の反応も返せなかった。え、今、浅羽くんから話振ってきた?俺のこと好きかって聞いてきたよね?



「…好きですけど」

「知ってましたけどね」



ケロッとした表情でそう言った浅羽くんに、なんか、告白したんだって感じが全然しなかった。知ってましたけどね、ってなんかあれだけど、でもすごい流れで、誘導されたみたいなもんだけど…って。冷静になれば何なんだろうこれ、って思った。



「うんでも、気にしないで、忘れてくれていいよ。私は浅羽くんと友達になれて嬉しいし、これからも友達でいたいな、って…思います」

「友達でいいんですか」

「え?」



私の腕を掴んだのは浅羽くんの大きくて、少しだけ冷たい手。告白したときよりドキドキしてる私。浅羽くんがよくわからない、ってそんなのいつものことだけど。



「恋人っていうのも楽しそうだと思いませんか」



その言葉を理解した、その瞬間、自分の顔がカッと赤くなったのがわかった。戸惑いとか喜びとか、隠しきれない色んな感情が私を震えさせる。え、うそ、それって、え、ほんとに?って聞けないし言えないけど、それは本当のことで。まだメールアドレスも知らないのにこんなのってあり?無しだよね、いや、有り?混乱する頭を少しだけ落ち着かせてくれたのは私の腕を握る浅羽くんの力強い手。



「あ、の。浅羽くん」

「なんでしょう」

「……とりあえずメールアドレス教えてください」



何て場違いな発言なんだろう。そういえば、って言った浅羽くんの顔に少しだけ笑えてきた。笑った私を見た浅羽くんは、初めて、少しだけ照れたような表情を浮かべた、ように見えた。


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