落ち着け自分、調子に乗るな自分、浅羽くんはただ面白がってやっただけかもしれないじゃん、ってひたすら自分に言い聞かせる。でもそれでも、浅羽くんが私を誘ってくれたのは事実で、内容がどうだったとしても嬉しいって思うのは仕方ない事だと思う。仕方ないよね?橘くんも声を大にして言っていたけど、あの浅羽くんが、橘くんに言われた訳じゃなくて私を誘ってくれたなんて、そんなの、そんなのもう本当にただの“奇跡”じゃん。
「もう付き合ってんのかと思ってたんだけど」
「違うの?」
「どう考えても違うから」
友人二人の盛大な勘違いを訂正しつつ、どこからそんな勘違いが生まれるのかが知りたいと思いつつ、ちょっと嬉しいって思ってる自分もいる。こういうところが調子乗ってるのかなって、自惚れだよなぁって、嬉しいと思いながら落ち込む自分もいる。乙女心が複雑だっていうのはこういうところから来るのかなって思ったり。そんなことを考えながら授業を受けているとお昼まではあっという間だった。お弁当食べて、返却期限が迫った本を返しに図書館に向かう。ついでにまた何か本でも借りていこうと新刊を眺めてみたり。こう見えても本を読むのは嫌いじゃないんです。
「探し物ですか」
「び、っくりした」
「すみません」
「え、いや、謝らなくても」
突然ひょっこりやってきた浅羽くんは、私の隣で並んだ新刊を眺めている。そう言えば前にも図書館で会ったような気がする。アニメージャ読んでたんだっけ、確か。懐かしいなぁなんてちょっとした思い出に浸ってみたりなんかしちゃったり。
「浅羽くんも珍しいね」
「まぁはい、たまには、本でも借りようかと」
「え、そうなんだ、何か読みたい本でもあるの?」
「いや、特には」
あ、だよねーって、なんかよくわかんない返答になっちゃって焦る。私には会話能力ってものが足りないのかもしれない、緊張なんてすると特に。
「むむむさんはよく読むんですか」
「よく読む、ってほどじゃないけど、読むのは好きだよ」
「そうですか。前も図書館で会いましたもんね」
え、浅羽くん、覚えてくれてたんだ、って急に浮かれる私。あんな何でもない瞬間を覚えていてくれるなんて思ってもみなかった。私もちょっと忘れてたくらいだし。適当に本を手に取りペラペラ捲るっていう作業を何冊か繰り返して、結局全ての本を本棚に返した。浅羽くんって本は本でも漫画を読むイメージがあって、文字だらけの小説を読むイメージって全然ない。
「もうすぐ昼休み終わりますけど。何か借りなくていいんですか」
「あ、そうだねどうしよう…」
私は適当に、なんとなく気になったタイトルの本を手に取った。浅羽くんはその隣にあった本を手に取って、カウンターまで並んで歩く。
「感想教えてね」
「…そうですね、最後まで読めたら」
手続きを済ませて、そのまま並んで、教室まで歩く。私またちゃんと友達っぽい事できてる、ってそう思うと、単純な感想だけどめちゃくちゃ嬉しい。友達で良くて、でもそれ以上になりたいって心のどこかで思ってて、無理だっていうのも分かってて、それでも期待してしまう。やっぱり、恋する乙女心っていうのは複雑なものなのだ。
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