浅羽くんとの帰り道は何でもない普通の帰り道だった。何度か一緒に帰ったときもあるけどあの時と変わらないくらい会話も少なかったし、特に盛り上がるわけでもなく、ただ並んで歩いて帰っただけ。本当に教室まで迎えに来てくれて、友人二人はビックリしてたけどやったじゃんって喜んでくれた。



「おっはよー!」

「おはよう…何でそんなに元気なの?」

「何でってそんなの、昨日ゆっきーと帰ったんだって!?」

「会話する気ある?」



私の質問に返ってきたのはちょっと斜め上の答え。テンション高めの橘くんに引き気味の私、これはもうおなじみの光景だ。朝の廊下で彼に捕まった私はその勢いにおされて逃げられる状況じゃなくなる。別に逃げたい訳じゃないし話すくらい別にいいんだけど、ここまで勢いよく来られると逃げたくもなるよね、反射的に。廊下の隅まで連行されてそのまま質問攻め。



「どうだった!?」

「いやどうだったって聞かれても、普通だよ、普通」

「いや普通って!普通じゃないよ!どこが普通なの!!」

「え?いや、普通だったから、あんまり喋んなかったし」



っていうかなんでそんなにテンション高いの、って私の疑問なんて聞く気もない橘くんのグイグイ感は過去イチかもしれない。正直うざい。



「いやいや、まさか二人がそこまで進んでるとは思わなかったよ!」

「そこまでって、今までも何回か一緒に帰ってるけど」

「あのゆっきーがねぇ」

「え、あの、聞いてる?」



腕を組んで一人でうんうん納得し始める橘くんがもう本当に意味不明。私の言葉には聞く耳持たずなのか、ただ単に聞いてないだけなのか。



「うん、でもまぁ、橘くんのおかげだし」

「え?なんで?」

「え?なんで、って」

「ゆっきーに誘われたんでしょ?」

「橘くんが言ってくれたんでしょ」

「え?」

「え?」

「俺ゆっきーに何も言ってないけど」

「…え?」



え?え?って、なんか変な空気になる。橘くんの言ってることがよくわからない。いや、分かるんだけど、え?って。浅羽くんが言ってたのは「橘くんに言われて誘いに来ました」で、でも橘くんは「俺は何も言ってない」ってそうやって私に言ってきた。



「え、え、ちょっと待って、」

「奇跡だよ奇跡!あのゆっきーが一緒に帰ろうって!誘うなんて!!」

「分かったからちょっと落ち着いてくれないかな!!」



って言いながら、落ち着かなきゃいけないのはきっと私の方だ。ドキドキしてる心臓は、事実を全て理解したから。こんなの何もないって分かってても自惚れちゃうよ、嬉しくなっちゃうに決まってるじゃん。でももし、もし浅羽くんが私の事、浅羽くんの意思で誘ってくれたのなら、それは少しでも私の事気にしてくれてるってことで、



「なんかもうなんかもう青春だなぁー!!」



橘くんは嬉しそうにそう言って私の肩をガクガク揺らした。やめてよ、それすら言うのを忘れてしまうくらい、私の頭も気持ちも、もう嬉しいとか嘘みたいとかそんな気持ちでいっぱいいっぱいだった。


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