「祐希くんおはよう」

「おはよう」



今までのあの葛藤はなんだったんだろうってくらい、普通に言えたのは今日の朝の出来事。下駄箱にいた祐希くんに声をかけたら、祐希くんもおはようって返してくれて、何だか久々に言葉を交わした気がして無性に嬉しくなる。冷めきってた感覚になってたけど、自分がまだ祐希くんを少しでも気にしてたんだなって改めて気付くと、好きだなぁって思った。自分の単純さには驚きだ。



「おはようむむむさん、今日は言えた?」

「おはよう橘くん、今日は言えたよ」

「まじで!?やったじゃん!!」



キラキラした目で本当に嬉しそうに笑ってくれた橘くんを見て、本当に応援してくれてるんだなって実感した。楽しんでる要素もまぁあるんだろうけど、応援してくれてるのは本当っぽいから許すことにしよう。教室に入ると友人二人はまた漫画を読んでいた。私に気付くとおはよーって声かけてくれた。いつもと同じ朝なのに、少しだけ違う朝。おはようの一言でこんなに違うんだなぁって、不思議な気分になる。恋するってこんな感じ?だとしたらもう、私は何回、祐希くんに恋してるんだろう。



「ねー何か、いい加減進展ないの?」

「ないよ」

「キッパリ言うな」



冷たいと言えばそうだけど、二人なりに心配してくれてんのかな、とか色々考えるとそれも愛のように思えてくる。私ってこんなにポジティブだっけ、って思ったけど今までこんなにポジティブだったことなんてない。どちらかと言えば私めちゃくちゃネガティブだし。でも橘くんも言ってくれていた通り、こんなんだけど多分、きっと、応援してくれてるんだと思う。多分ね。

全部は気持ち次第なのかもしれない。好きだって思ってそれでも友達で十分だって思ったはずなのに、結局祐希くんを相手にしてしまうと緊張して落ち込んで捻くれた態度になっちゃうんだから本当にただのバカだよね私。おはよう言うのに何日かかってたの。何日もかかったくせに、結局アッサリ言えちゃうんだもんびっくりだよね。一人で葛藤して何日も無駄にしたんだから。



「むむむさん」



一人で廊下を歩いていたとき、後ろから聞こえてきた声に胸が高鳴る。振り向くともうわかってた、祐希くんがそこにいた。今わたしのこと呼んでくれたよねって、そんなことにドキドキしちゃう私。ゆっくり歩いてきた祐希くんは私の前で立ち止まって、私のこと見てて。



「今日一緒に帰りませんか」



って、そんなこと言うから、びっくりしちゃって。戸惑う私に祐希くんは表情ひとつ変えずに「どうですか」って聞いてくるから私は大きく何度も頷いた。まさか、まさか祐希くんが誘ってくれるなんて、って、思ってたんだけど祐希くんはまぁ素直な人だからね。橘くんが仕向けてくれたらしい。それでも嬉しくて、私はこの時全力で橘くんに感謝していた。結局、何だかんだ言いながら橘くんがいないと何も出来ないんだよ私。



「えっとじゃあ、あの。授業終わったら迎えにいきます」

「あ、あの、わざわざごめんね、」

「誘ったの俺なので、謝らなくても」

「あの、…ありがとう」



って。ごめんなさいばっかりじゃなくて、大事なのは、ありがとう。誰も悪いことしてないんだから謝る必要ないんだよね。それより、迎えに来てくれることに、誘ってくれたことに、ありがとう。
この短い期間の間に、私も随分と成長したなぁって感じる。気持ちはまだまだ子供だけど、でも、数ヵ月前の私とは全然違うんじゃないかなって、それが自分でも分かる。まだ勇気は足りないけど、いつかは私から祐希くんに「一緒に帰ろう」って言えたらいいなと思った。


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