緊張のまま家を出て、ゆっくりと歩きながら学校に向かう。シュミレーションは何回もしたし、橘くんのおかげで決心も着いた。橘くんのおかげかどうかは微妙だけど、違うって言うのも違う気がするから、まぁ、橘くんのおかげなんだろうけど。考え事をしながら歩いているといつの間にか生徒が沢山歩いていた。前から賑やかな声が聞こえて、目を凝らすと、ああやっぱりあの5人組。今日も朝から元気だなぁって思いながら、いつの間にか分かるようになっていた浅羽祐希くんの後ろ姿を目で追っていた。



「弁当忘れた」

「バカだな」

「うるせぇお前には言われたくねぇよ」



そんな友人二人の会話を聞き流しながら私は自分の机にお母さん手作りのお弁当を広げた。まぁうっすら分かってはいたけど、何度も繰り返したシュミレーションは結局は役には立たないのだ。いざ行こう、言おう、ってなると萎縮する私の気持ち。声を掛ければ届く距離に立ったって、よし今だ今日こそ言うって決めたんだ早く言わなきゃ行っちゃうよ!なんて考えてるうちに浅羽くんの姿は無くなっている。今日は珍しく橘くんも声をかけてこなかった、代わりに私を見付けてウインクして親指を立てた彼のあの姿は私をイラッとさせるには十分すぎたと思う。



「ちーっす☆」



なんて、星マークを飛ばしながらウインクかましてきた橘くんを無視して私はお弁当に箸を伸ばす。ちょっとちょっとー!なんて言いながら私の机に突っ込んできた橘くんはその手にお弁当を握りしめていた。一緒に食べるつもりだろうか。友人二人は気を利かせたのか二人で食堂行ってくるねーとこの場を離れていった。いらない気遣いだったんだけど…って思ってるうちに彼は当然のような流れでお弁当を広げた。



「最近ゆっきーと喋ってる?」

「喋ってる喋ってる」

「嘘吐けぇいっ!!」



バンッと机を叩いた橘くんにクラス中の視線を浴びる事になる。びっくりして玉子焼き落としちゃったよどうしてくれんの勿体ない。



「知ってるんならもういいじゃん」

「知ってるから良くないんじゃん!!俺はこんなにも応援しているのに!!」

「楽しんでるだけでしょ?」



どうせ、友人もそうだ、結局は私のこういう状況を何と無く楽しんでいるだけ。最初からそうだったもん、私が何かする度に皆で楽しんでる姿をもう何度も見てる。不服な表情を浮かべた橘くんは箸をくわえたままじっと私を見ている。



「最初はそうだったけどさぁ…今は本当に応援してんのこれでも!!」



むすっとしたままお弁当を食べる橘くんに、箸を止めたのは今度は私の方だった。最初はそうだったけど、って、今は本当に応援してんの、って、笑わないで本気で言ってくれてるの、私にだってわかる。



「むむむさんの友達もそうなんじゃないの?ゆっきーと友達になったっていう報告から何も進展しないし、むしろどんどん友達っぽさも無くなってんだから意味わからんわ!!」



感情的になった橘くんは机をバンバン叩きながらお弁当を掻き込んでいる。クラス中に聞こえてるんじゃないかってくらいのトーンでヒヤヒヤしたけど、周りも賑やかで幸いにも彼の声は掻き消されていた。まぁ誰も私と橘くんの会話になんて興味ないだろうけど。
それにしても、だ。橘くんが、まさかそんな風に思ってくれていたなんて。確かに協力的だったけど、それはただ楽しんでいるだけかとそう思ってて、でもそれは私の勘違い。じゃあ友人二人も?そんな風に思ってくれてるの?って、思い返すと、二人の反応は確かに、面白がっている感じでは無かったことも何度もある。



「まずは、おはようから!」



元気よくそう言った彼に、私は何も言わず小さく頷いた。結局のところほとんどは私の被害妄想で、勝手に自虐的になってただけってこと。祐希くんは私の事なんて何とも思ってないのかもしれない。でも、それでもいいかもしれない。私が一方的に勝手に意識してしまうくらいなら、そう思った方がずっと楽なのかもしれない。じゃあ頑張って、って出ていった橘くんと、何の話してたの?って聞いてくる友人二人に、たくさんの勇気をもらった気がした。


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