今日は珍しく寝坊した。今までこんなこと滅多になかったし、急げば間に合うんだけどなんだかもう面倒になってやめた。二時間目から参加すればいいや、って。友人にメールすれば「バーカ」と「チクってやるよ」っていう返信が来てて、何とも言えない気持ちになって携帯をしまった。
当然のごとく通学路には誰もいない。今日もまた天気がよくて、空に浮かぶ雲が写真みたいに綺麗だった。とぼとぼ歩く通学路は何かちょっと寂しいような気がする。いつもガヤガヤと賑やかだからだろうか。小さくため息をついてまだ少し遠い学校までのんびり歩くことにした。
「むむむさーん!?」
…遠くから聞こえてきた声に振り替えれば、案の定だ。橘千鶴が私に向かって手を振りながら全力疾走をしているところだった。そんな彼を立ち止まって待って、その場で合流。待つ義理なんてないけどなんとなく、橘くんのキラキラした笑顔ってムカつく事もあるけどそれでも人懐っこさというか、愛嬌はあると思う。放っておけないというか、放っておいちゃいけないというか。そういうキャラなんだろうけど、彼くらい愛嬌があったら私だってもっと人生楽しく過ごせただろうなって。まぁ、なりたいかって聞かれればそれは違うけど。
「おはよう」
「おはよー!っていうか遅刻?珍しくない?」
「ちょっと寝坊しちゃって」
「一緒一緒!俺も寝坊!いやー奇遇だねぇ」
よくわからないテンションに若干引きつつ、普通に「おはよう」って言った自分に気付く。浅羽くんには言えないくせに、相手が違うだけでこんなに自然に言えちゃうもんなんだなぁって、ちょっと呆れるっていうか…うん、自分に呆れる。自分の中での浅羽くんの位置が、やっぱり“友達”とは少し違うのかもしれないって、気付くとちょっと複雑な気持ちになる。友達は、友達。それ以上でもそれ以下でもない、ただの友達。
「元気ない?」
「そんなことないけど」
「ゆっきーのこと?」
「だから、そんなことないって言ったんだけど私」
「まぁまぁ、ゆっきーねぇ…確かになんかちょっと難しいかもしんないけどなぁ」
私の言葉に聞く耳持たずな橘くんは浅羽くんの事を彼なりに、親友なりの解説をし始めた。私の言葉は聞こえていなかったのだろうか。元気ないことはないけど、でも、ちょっと落ち込んだのも事実。鈍感なんだかそうじゃないのかよくわからない橘くんに、最近はずっと振り回されているような気がする。それでも許されちゃうのはやっぱり橘くんのキャラクターや愛嬌のおかげだろう。
「でもさー、他の女子に対する態度とむむむさんに対する態度って全然違うじゃん」
「信憑性のない情報だね」
「いや、ゆっきーの親友としてこの俺が言うんだから間違いないね!」
自信満々の橘くんの言葉に、ほんの少しでも気持ちが揺らぐ私は弱いなぁと思う。それが、浅羽くんが私に友達として接してくれているっていうことなら本当に嬉しいことだし、同時に少し、切なくもなるんだけど。橘くんに言われて私だって思い当たらない節がないわけじゃないのも、事実。
「だからさ、普通に話し掛けてみればいいって。ゆっきーだって結局は普通の高校生なんだし」
にっこり笑った橘くんの言葉は何故だか物凄く頼りになるものだった。普通に話し掛けるのが私にとっては難しいことなんだけど、でも、橘くんが自称したように彼らは確かに親友同士。だからこそ橘くんは自信を持って言ったんだろうし、こうやって協力してくれてるって私にとっては心強くもある。今日こそ、それは出来なくても明日こそは、おはようって、その一言だけでも伝えてみようって改めて胸に決めた。
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