おはようって、声をかけてみようと決意したのは昨日のこと。朝起きてビックリしたのは、夢に見るほど緊張してるってこと。夢の中でどうなったかは聞かないでほしい。決意が揺らぐから。夢の中みたいに無視とかされたら私もう立ち直れないから。
学校に向かう準備をダラダラと済ませ、玄関を出ると何故だか再び緊張に襲われる。おはようって言うだけなのに、自宅の玄関でこれだけ緊張してたら学校着いたらどうなっちゃうんだろう…。とぼとぼ、いつもの通学路を歩きながら緊張とか不安とか焦りでいっぱいいっぱい。そんなことしてる内に学校着いちゃって、下駄箱にはもう沢山の生徒がいる。そこに浅羽くんを見つけたんだけど「おはよう」なんて声を掛けられるような雰囲気なんかじゃない。すぐそこに居るのに、なんか他の人に見られちゃいそうで嫌だ…なんて思っちゃう私って本当にヘタレ。ただのチキン野郎じゃないか。実際そうなんだけど。



「おーっす」

「おはよー」

「うん、おはよう」



教室の私の席には早くも友人二人がいてダラッと座りながら漫画を読みふけっている。人気の少女漫画かと思いきや最近人気のスポーツ漫画らしい。私の椅子に堂々と座っている彼女に何と無くなにも言えない私は取り敢えず窓にもたれかかる。窓際一番後ろの席、バンザイ。くじ引きで決まった席にしては最強の場所を引いたと思う、こんなところで運なんか使い果たしたくなかったけどね。



「ところでさぁ、浅羽と何か進展あった?」



視線は漫画に夢中なのに私に問いかけてくる友人。何もないよ、って言えば興味なさそうにふーんって。ふーん、って、そんな、そんな…。まぁいいんだけど、って教室をボーッと見渡してみる。朝から皆楽しそうだなぁ。おはようっていう挨拶が飛び交う教室で、おはようって、…おはようって、何でそれが言えないんだろう、私。他人の目なんか気にして挨拶すら出来ないなんて。ここにいるクラスメイトになら、おはようでも何でも、簡単に言えそうなのに。
小さくため息を吐くと、友人は私を見上げていた。何?って聞いても別にって返ってくるだけ。そうしていると朝のホームルームの始まりのチャイムが鳴って、先生が教室に入ってくる。



「自分の席に着けー」



ホームルーム、先生が何を言っていたのか全く覚えていないのは、私の頭の中が「おはようのタイミング」でいっぱいだったから。明日は言いたい。仮にも私と浅羽くんって友達なんだから、おはようくらい普通に言えるといいなって思う。


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