あの告白しなよ事件があって以来、当然というか何と言うか浅羽くんと話をする機会がそりゃもう、全く無くなってしまった。当然なんだろうけど…何て言うか、ね、寂しい、っていうか。時々浅羽くんを見掛けるんだけど、見掛けたからって話し掛けるわけにもいかないしそんな勇気もないからすれ違うだけ。ついつい下を向いちゃうのは私の悪い癖かもしれない。それによくよく考えると私から浅羽くんに話しかけたことって無いような気がしてきた。せっかく構ってくれてたのに私、何てことしちゃったんだろう…って後悔。実際は私じゃなくて橘くんのせいなんだけど。



「よーっす!」



バシン、と私の背中を叩いたのは全ての元凶とも言えるその張本人だった。元気ないねーなんて言うけど誰のせいなんだと思って思わず表情も冷たくなる。流石に気付いたらしく橘くんの顔も一瞬固まった。



「だってまさかあんなところにゆっきーが居るなんて思わないって!!」



なんか必死で言い訳してるけど、正直もういいやっていう気持ちもないわけじゃない。元々私なんてそんな、浅羽くんとどうこうなりたいって言ったり思ったりできる立場なんかじゃないし。それはわかってるし、再認識させてもらえたと思えばいい機会だったのかもしれない。もしかしたら最近ちょっと調子に乗りすぎてたかもしれないし、なんかもう、いいや…。



「けど別に気にしてないと思うんだけどなー…だってゆっきー普通だよ?」



横を歩きながらそう言う橘くん。まぁそうだろうね、だって浅羽くんだし。橘くんにどうこう言っても仕方ないし、…――なんて。こんなひねくれたこと言いながら、本当は心のどこかで安心してる自分もいる。橘くんの言うことはいつも適当で根拠もないけど、でもそのポジティブさに救われる部分も少なからずあったりする。それに、本当に根拠はないかもしれないけど橘くんと浅羽くんは本当に仲が良くてそれこそ親友みたいなもので、なんか私もよくわかんないけどそんな気持ちになっちゃって。…なんかもうどうでもいいや。



「えーっと。……ごめんなさい」



いきなり立ち止まった橘くんが、振り向いたらそこで頭を下げていた。びっくりして「何してんの」って聞けば、一応本当に悪いなって思ってくれてたらしくて。意外すぎる行動にちょっと笑ってしまう。何やってんだろ、この人。



「いいよ、怒ってないよ別に」

「ほんとに?」

「かなり腹立ったけど」

「えー…!」

「でもいいよ、もう仕方ないし。それになんかもうバカバカしい」

「ならいいけどさー?」



って、頭の後ろで手を組んだ橘くんがまた私の隣に並んで歩いた。いつの間にか橘くんとめちゃくちゃ仲良くなってるような気がするけど、多分あんまり気のせいじゃないと思う。これもまぁ、嫌な感じはしないしいいかなぁって思っちゃう自分がいて。



「でもほんと、ゆっきー気にしてないから普通に話しかけてやってよ」

「何様だよ」



どんな展開なんだよって、ほんとに笑っちゃうんだけど今まで橘くんみたいな友達も居なかったから新鮮な気持ちになる。橘くんがそう言ってくれたんだし、浅羽くんも私のことなんかいちいち気にしてないかもしれないなって、前向きに思えるようになったのは橘くんのお陰なんだと思う。今度、勇気が出たらおはようくらい、話しかけてみようと思った。


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