朝っぱらから不安な出来事を聞くと、授業とかそれどころじゃなくてその事ばっかり考えちゃう。返ってきた小テストの結果は思ったよりも良かったけど、それでもため息が出る理由ってなんだろう。…分かってるんだけどね、悠太くんの事って。片想いが楽しいとか、そんなこと思ってた自分が居たのが嘘みたいだ。全然楽しくなんかない。つらい、わけじゃないけど、つらくない、って言えば嘘になる。恋愛が楽しいだけじゃないんだなって、ちゃんと自分でわかった。片想い、悲しいんだなぁって。



「大丈夫?」



溜め息を吐いた私の肩に、ぽん、と突然乗った手。思わず肩が跳ねて、振り向くと、逆に驚いた、悠太くん、が。肩から手が離れたまま、固まって私を見ていた。私もびっくりして固まってると、悠太くんが小さな声ですみませんって呟いた。



「テストどうだった?」

「思ってたより出来てたよ」

「そっか」

「悠太くんどうだった?」

「おれも、思ってたよりは出来てたかな」



何でもない話をする。放課後の教室には私と悠太くん以外誰もいなくて、なんか少女漫画のワンシーンみたいになってる。夕焼けにはまだまだ遠いほどに、空は明るいんだけど。どうして悠太くんがいるのかはわからないけど、嬉しいような、なんか、嬉しいんだけど…気になっちゃって、落ち込んじゃって。でも聞けないし、聞けるわけないし、もやもやは大きくなるばっかり。それどころか何だか泣きそうになっちゃって。片想いってつらいなぁ、ってグサグサ突き刺さる。私だけが悠太くんを好きで、それって結局どこまでいっても一方通行ってわけで。…悲しいなぁ。



「…なんか……俺の噂がまわってるみたいなんですけど」



悠太くんの声が、静かな教室に、静かに響く。まさか悠太くんからこんな話をしてくれるなんて思ってなかったから、色んな感情で、色んな緊張が私を襲う。もし、付き合ってるんだ、なんて言われたらどうすればいいんだろう。仲がいいから教えてくれるって、それなら嬉しいけど、嬉しくなくて、やっぱり複雑。…嘘、悲しい。



「むむむさんも聞きましたか?」

「うん、聞いたよ」



どうしよう、本当に、実は付き合ってるんです…なんて言われたら。ちゃんと笑えるかな、笑っておめでとうって言えるかなぁ…って。なんかもう悲しすぎる。覚悟は、なんと無くできたけど。でもなぁ、悠太くんに直接そんなこと言われたら、どうすればいいんだろう、私。



「告白はされたけど、付き合ったとか、そんなんじゃなくて…それは嘘で」



…って。言葉を探しながら、そうやって言ってくれる。…――なんだ、そうなんだ、私、どれだけ被害妄想が激しいんだろうって反省して、それから喜ぶ自分がいる。付き合ったとか付き合ってないとか、そこまで私のところには回ってこなかったけど、悠太くんがそう言うってことは多分、一部では付き合ってるっていう話があったっていう事だと思う。安心したら一気に思考が変わった私って一体何なんだろうな…って苦笑いも浮かぶ。調子いいよねぇ、我ながら。



「…それだけなんですけど」

「そうなんだ、…教えてくれてありがとう」

「いや、なんか…すいません、どうでもいい事かもしれないですけど」

「そんなことないよ!…噂、って、あることないこと広まっちゃうし、」



そんなことないよ!って、勢いよく言い過ぎたから、即座の言い訳。なんかちょっとあからさまだったかなぁ…って、なんか、もう今日は調子悪い、ほんとに、私どうにかしちゃってるよね。悠太くんが気にしてないみたいだから私も平静を装っているわけだけど、明らかに怪しいのはもう誰が見てもそうだと思う。悠太くんの優しさが見に染みる。



「まだ帰らないんですか?」

「あ、うん…そろそろ帰ろうかな」

「じゃあ俺も」



一緒に歩き出す悠太くん。一緒に帰れるのかな、って、淡い期待は現実のものになって。朝から一転、晴れ渡った気持ちで、幸せな気持ちで帰り道を歩くんだ。


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