明日が休みの金曜日。今日が終われば明日は休み!と、そんな無駄な気合いが入る一日だ。



「浅羽くん、おはよう」

「…おはよう」



下駄箱で浅羽くんを見付けて、いつも声を掛けてくれるから私からおはようって言ってみたら、今度は浅羽くんが驚いてた。隣にいた浅羽祐希くんがじっと私と浅羽くんを見ていたけど、おはようって声をかけると小さく「おはようございます」って返してくれた。先に歩いていった二人が何か変な感じだったけど、私が挨拶したことがそんなに変だったかなってちょっと後悔。それにしてもあの二人、見れば見るほどそっくりで、見れば見るほど綺麗だなぁって思った。
ボケッと授業を聞き流しながら、窓際の特権である窓の外を眺める私。今日もいい天気…なんて思ってるとちょっと眠くなってくる。テストが近いっていうのに、我ながら何てやる気の無さだろう。欠伸が堪えきれない。そんな放課後、今日は早く帰りたい気がしてプリントとかを鞄に詰め込む。廊下を歩いてるとよく目立つ金髪頭と、ふわふわ頭の二人が小走りで駆け寄ってきた。



「え!もう帰んの!?」

「え?帰るけど…」

「か、帰っちゃうんですか…!」

「え、うん、なんか、特にやることないし…」



と、答えながら私が思うのは、この二人って私今まで話したことあったっけ、ってこと。馴れ馴れしい、のはまぁ全然いいんだけど私が帰っちゃいけない理由でもあるんだろうか。明らかに引いてる私に気付かない二人、特に松岡くんは明らかに挙動不審だ。



「むむむさん茶道部とか興味ない!?」

「茶道部?いや、特に…」

「た、楽しいんですよ茶道部!」

「あ、そうなんだ…」

「和服着たゆうたんとか興味ない!?」

「和服?…は、うん、カッコいいだろうなとは思うけど…」

「思う!?やっぱり思う!?」

「今から茶道部に来ませんか!!」



と、松岡くんが廊下で絶叫。二人は私を部活勧誘したかったんだろうか。正直なところ、帰りたかったんだけどこの雰囲気にそれは言えなかった。でも二人が言うように、和服の浅羽くんに興味がないかと聞かれれば無いわけではない。だって、和服なんて絶対似合うし、カッコいいだろうなぁ…って一人で勝手に妄想して勝手に照れる。



「ゆうたーん!」

「じゃあ僕も着替えてきますね」

「春ちゃん行ってらっしゃい!」



来慣れない茶道室にキョロキョロしながら、橘くんは勢いよく襖を開けて浅羽くんを読んだ。私から見た浅羽くんは和服姿の背中だったけど、振り向いた浅羽くんが余りに美しくて緊張した。綺麗だろうなぁとかそんなのは想像してたけど、想像を遥かに越える場所に正解はあった。和服の色もよく合ってるし、姿勢正しく、軽くお辞儀をしてくれる浅羽くんはまるでイラストみたいな、なんかそんな感じで。緊張と照れと動揺のせいか、説明口調も長くなるって。
畳を踏み締めながら中に入って、何だかよく分からないから取り敢えず橘くんの隣に正座。



「すみません、なんか。どうせ千鶴が無理矢理連れてきたんだろうと思うけど」

「そんなことないよ!むむむさんゆうたんの和服姿見てみたいって言ってたし!」

「え、」



いや私、カッコいいと思うとは言ったけど見たいては言ってないよ!とは言えるはずもなく。いやだってまぁ実際これは、見れて良かったって心の底から思ってるし。皆が思ってるよりめちゃくちゃカッコいいからね、本当に。これは分かってもらいたい。グラスの女子たちがこの姿を見れば卒倒するんじゃないだろうか。なんか、そう考えるとちょっとした優越感が生まれる。みんな好きになるよ、こんなに綺麗でカッコいいんだから。



「せっかくだからお茶菓子持ってきました!」

「さすが春ちゃん!待ってました!」

「むむむさんも遠慮せず食べてくださいね」

「…え、いや私そんなつもりじゃ、」

「遠慮しなくていいですよ。千鶴もこんなんだし」



これまた和服がよく似合う松岡くんがお盆に乗せていたお茶菓子を私の前に置いてくれた。なんなんだろうこの展開…と不思議な感じに浸りながら、浅羽くんもそう言ってくれたし、とお茶菓子を頂いた。うん、上品な味がする。



「じゃ!春ちゃんと先に帰るから!」

「え、千鶴くん…」

「ゆうたん!むむむさんを安全に送り届けてあげるんだよ!」



と、橘くんは松岡くんを半ば無理矢理引き摺って帰っていった。残されたのは私と浅羽くん。もう本当にどういう状況なんだろうか、これは。



「…なんかすみません」

「え、そんな、浅羽くんが謝ることじゃないよ」

「送っていきますね」

「え!いいよいいよ!」

「もう遅いし、せっかくだから」



って、あまりにも優しい声で言ってくれたから私も「あの、じゃあ…」って。物凄く贅沢な事をしているような気がして申し訳ないように思ったけど、なんか、でも、一緒に帰るとか青春っぽいなって。こんな機会もう二度と無いかもしれないし、今日くらい、いいよね、って緊張のまま並んで歩く。あんまり話したことないからどうすれば良いのか分からなくてちょっと気まずかったんだけど、浅羽くんと並んで歩けるんだから当然、嬉しい気持ちもある。



「橘くんって嵐のような人なんだね」

「迷惑かけてすみません」

「なんで浅羽くんが謝るの、」



まるで橘くんのお母さんみたいな、そんな包容力を感じる。思わず笑ってしまった私に浅羽くんはどう思ったかわからないけど、とっても素敵な金曜日になった気がして嬉しくなった。今日はいい夢が見れそうな気がする!なんて、ね。


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