友人二人に話してから何だか少しだけ気が楽になった気がする。こそこそしなくてよくなったし(いや別にこそこそしてたわけじゃないんだけど)、何より二人は面白がってはいるけど応援してくれてるみたいだし。まぁ応援されたところで私は友達以上の関係を望んでるわけじゃないから、その辺の温度差には困るけど。
「もっと積極的にいかなきゃ何にもならないんじゃないの?」
「いいよ別に何も望んでないし」
「あーつまんねぇ」
女子らしくない台詞を吐き出した友人は、短いスカートから伸びた長い足を組んだ。どっかのお嬢様っぽいけど彼女の両親は普通に共働きをしている。どうでもいい話は置いておいて、何度も言うが私は本当に友達以上の関係は求めていない。最初の告白でもう諦めたし、友達になって名前覚えてもらってもう十分だよ私は。そんなことを言っても二人は「はいはい」って言うだけ。そういえば今日は橘くんの姿をまだ一度も見ていない気がする。いつもうるさいからとても静かに思える。あ、うるさいって言っちゃった。
「なんか今日静かだね」
「橘くんいないからじゃない?」
「そういえばいないね。何で?」
「いや私に聞かれても」
「浅羽に聞いてきなよ」
「あ、いいじゃんそれ!賛成!」
「橘くんが休みな事に興味ないでしょ絶対」
そんなことないよって棒読みで言われた私はどうすればいいんだろうか。なんかちょっと同情した。早く聞いてきなよ、と私の背中を押す二人はもう何だかめちゃくちゃ楽しそうだ。無理無理、って溜め息吐いて前を見るとそこにはコッソリこっちを覗く浅羽くん。なんてタイミングなんだ!と後ろの二人を見るとニヤニヤしている。
「早く行っておいでよ、浅羽絶対あんた見てるでしょ」
「早く、ついでに橘のこと聞いておいでよ」
「橘くんはついでなの?」
浅羽くんが私を見てるのは確かで、なんかドキドキしながら私は浅羽くんの方に歩く。後ろの二人の視線が微妙に気まずい。いや、気まずい。とりあえずちゃんと廊下にいる浅羽くんの所まで辿り着くと、彼は小さくどうもと呟いた。緊張する、一対一だし、いやそれは前も一緒に帰ったりしたけど、浅羽くんから私のところに来てくれるなんて…!って一人で感激しながら緊張。
「えっと」
「はい」
「千鶴がこれ返しておいてって」
「…あ、ありがとう」
渡されたのは歴史の教科書。あれ私こんなの貸してたっけ…とさりげなく裏を見てみるとそこには確かに私の名前が書いてあった。あ、これ橘くんが勝手に持っていったパターンのやつだな。
「ところで今日は橘くん見かけてないんだけど」
「千鶴?今日は休みですよ」
「え、ほんとに休みなの?」
「なんとかは風邪引かないっていいますけどね」
「…浅羽くんって橘くんのこと結構言うよね」
「あ、バカって思いましたね今。俺そこまで言ってませんけど」
「……な!」
なんだ!と思って彼を見ても、彼は無表情で私を見ている。前にも一回こういうことあったと思うわけだけど、彼は意外と意地悪なのだ。じゃあまた、と教室に戻っていく浅羽くんの背中を見ながら実はちょっとだけときめいた事は誰にも言えない。
「何の話だったの?」
「え、なに教科書?」
私の手に持たれた教科書を見た二人はあからさまにがっかりした表情と態度を見せた。橘くんが風邪で休みだと伝えると二人は「バカなのに!?」と爆笑し始める。さっきの浅羽くんとの会話を聞かせてあげたかったけど、なんとなく、私の心の中にしまっておいた。
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