牛乳事件の後、案の定橘くんの機嫌を損ねてしまったらしい。まぁそりゃそうかもしれない。一応、自分が小さいことを気にしている節はあるらしいし。その後友人二人が去ったあと、橘くんに祐希くんとの経緯を説明すると不機嫌な表情で牛乳を飲んでいた彼の表情が晴れやかになる。なんて分かりやすい。
「で!?」
「で、って何」
「何ってその後!一緒に帰ろうとかメルアド交換とかしなかったわけ!?」
「何その不自然極まりない流れは」
一体どんな流れを想像しているんだこの人、と呆れてもしまうだろう。じとっとした視線を送る私には気付かず、橘くんはブーブー文句を垂れている。何と無く、いやはっきりとわかってはいたけど彼はアホなのだ。馬鹿野郎なのだ。
「アドレスくらいさぁ、パパッと聞いちゃえばいいじゃん!」
本当に阿呆な野郎なのだ。こんな私なんかが浅羽くんにアドレスなんか聞けるわけ無い。自販機では割と普通に話せたけど、でもそれとこれとは話が違う。無理だって分かってるから私は無表情で橘くんを見る。そんな私を気にすることなく彼は力説し始めるのだ。思えば最初っから、そう、初対面のときからそうだったんだよ。
「橘、あんた教室戻りなよ」
「牛乳も飲んだしもういいでしょ」
「えぇっ!今いいとこなんだけどー!」
シッシッと友人二人に追い出された橘くんは牛乳を握りしめて、渋々といった感じで教室を出ていった。そしてさっきまで橘くんが座っていた椅子に1人が座り、もう1人の友人が私の机にバンッと手を叩きつけてニヤニヤ笑っている。うわあ、色々やばそう。色々とめちゃくちゃ面倒臭そう。
「で、私たちまだ聞いてないんだけど?」
「いつ浅羽と友達になったわけ?」
どこから聞いてきたんだこの二人は。そのニヤニヤに対して私が無言を貫き通すなんて出来るはずもないのだ。結局一から十まで話すことになる。まぁ、橘くんのお節介のおかげで一緒に帰って友達になりましたってことだけなんだけど。
「もっと早く言いなさいよ!」
「むーのくせに何面白いこと隠してくれちゃってんの!」
私のくせにとか、面白いとかはもうこの際スルーするとして。散々からかわれたけど最後には「よかったじゃん」って言ってくれたから、私もまぁいっかってそう思ってしまうのだ。
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