次の目的地に向かってのんびりと航海中。サンジ特製のクッキーを食べながらぼんやりと海を眺めていると、隣でナミがバサッと勢いよく新聞を開いた。物騒な世の中だわ、って溜め息を吐いて、何と無く私の目に入ったのは日付だった。こっちに来てからあんまり気にしてなかったけど、そっか。



「今日は七夕なんだね」

「…たなばた?なにそれ」



大きな目を更に開いて私に疑問を投げ掛けてくる。ああそうなんだ、こっちの世界には“七夕”が存在しないんだ、とそんなことを今更ながらに知る。



「たなばた?祭りか?」

「お祭り…うーん。七夕祭りも、あるところはあるんじゃないかな」

「7月7日…たなばた。初めて聞くわ、どんなものなのか教えてもらえるかしら」



サンジやロビンも興味を持ってくれたらしく私の周りに集まってくる。そんなに興味もってもらえるとも思ってなかったから、私の世界の事知りたいって思ってくれてるのかなって嬉しくなった。



「空には織姫と彦星っていう男女がいて、そのふたりが一年に一度だけ会える日が今日、七夕の夜なんだって」

「何で会えねぇんだ?」

「私もそんなに詳しくは知らないんだけど、真面目に働いていたはずの二人は惹かれ合って全く仕事をしなくなって。それじゃダメだからって、ずっと一緒にいた二人は天の川を挟むようにして離されちゃう…だったような。仕事するなら一年に一度だけ会わせてあげるって…よくわかんないんだけど」

「へぇ…随分と厳しい罰を与えられたのね、その二人」

「ちゃんと仕事するなら一年に一度だけ会わせてやる、か…」



ナミとサンジが考え込むようにして空を眺める。欠伸をしながらやってきたゾロが二人の様子を不思議に思って、二人と同じように空を眺めた。



「サンジおやつ!おかわり!」

「おれももっと食いたいぞ!」

「…んああ?何してんだお前ェら」



勢いよくお皿を差し出した3人がやってきて、ゾロと同じように空を眺めた。



「一年に一度だけ会える日に、天気が悪ィとはなァ」

「この様子じゃ夜は荒れそうね」



サンジとナミがそう言った。意味がわかっていないっていう顔をしたゾロが私の方を見ていた。さっきまでしていた七夕の話をすると、ルフィやチョッパーが食い付いたのは七夕とかそんなんじゃなくて“お祭り”っていう言葉だった。



「それと祭りはなんの関係があるんだよ」

「…関係ない、って言われればそうかもしれないけど…」

「祭りかぁ!よし、今日は祭りだ!サンジ、今日の夕飯は豪華な料理だ!」



笑ったサンジが無理だ食材がねェとタバコを蒸かしながらそう言った。
七夕祭りのことを思い出してみる。何してたっけなぁ、と、思い出した大事な事。そうだ、七夕と言ったらこれだ。



「笹の葉に、願い事を書いた紙をぶら下げると願いが叶うんだって」

「またえらくぶっとんだ話だな」

「叶うわけないんだけど、小さい頃からずっとやってたんだ。短冊に願いを込めて、小さい頃はきっと叶うんだって信じてたんだよ」



懐かしいなぁ、あの頃が。七夕が近付いてくると学校や近所のデパートにも沢山の笹が用意されていて、書けば叶うんだって色んな願い事を書いてきた。今、皆に言われて考えてみると七夕に願い事をするっていう繋がりは全くわからないんだけど。きっとこれにも何か理由があると思うんだけど、生憎今の私にはわからない。



「いいじゃんそれ!やろうぜ!」

「はぁ?笹の葉なんてないわよこの船に」

「メリーにくくりつけよう!」



そうと決まれば、とウソップとチョッパーは紙とペンを持ちにいった。ルフィは願いをどうしようかと考え込んでいる。ウソップとチョッパーに配られた紙とペンを握りしめると、ついさっきまで“下らない”と呆れていたナミやゾロも意外と真面目に考え込んでいる。私もどうしようか考える。



「よーし出来たっ!これをメリーに結べばいいんだな!」

「おれもできたぞ!」

「私も書けたわ」



皆が次々にメリー号に短冊をくくりつけていく。私はまだペンが進まないまま、色んな願いを考える。願いは沢山浮かぶのに、それを文字にするには、少しの躊躇い。

――――皆とずっと一緒に居られますように

―――……なんてこんなこと。果たして書いてもいいのだろうか、なんて考えると文字には出来ずにいる。ずっと一緒に、なんて。あっちの世界の事、忘れたわけじゃない。帰りたい…そう思ってる、はず――…なのに。



「あとお前ェだけだぞ」



ゾロに言われて私はペンを握り締める。皆が私を見ている。色んな思いが胸を、頭を通り過ぎていく。会いたい人はいっぱいいるんだ、家族も、友達にも、会いたいんだ私。それでも、



「私もできた」



それでも。こんな風に思ってしまう私はもしかしたら、あっちの世界に帰ったときに「最低」だとか思われてしまうかもしれないけど。大切だから、大切にしていきたいから。だから間違いじゃないって、そんな風に思ってる。この気持ちに、嘘なんか一つもない。



「海が荒れてきたわね」

「こりゃせっかくの願い事も、明日の朝には残ってねェだろうなァ」



ビュウビュウと吹く風がどんどん強くなってくる。今日はこれから海が大荒れになるんだとナミが言った。あんな願い事ならいっそ、風や竜巻にでも飛ばしてくれた方がいいのかもしれない。そんなことを思いながら、私は薄暗い空を眺めた。










みんなとずっと一緒にいられますように


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