浅羽くんと帰るわけないじゃん、なんて普通にそう思いながら私は図書館に向かう。浅羽くんって部活してなかったはずだから多分すぐ帰るだろう。…いや違うか。いつも仲良し5人組で一緒にいて何してるんだか知らないけど帰るのは結構遅いんだっけ。じゃあここはもう帰ろう。そうだそうしようって、ここからすでに間違っていたらしい。



「どうも」



下駄箱に向かうと何故か浅羽くんが傘置き場に座ってボーッとしていた。え、何これ、って若干焦っていると立ち上がってズボンに付いた埃を払う。まさか本気で一緒に帰ってくれる気なのかと、戸惑いながら靴を履く。え、これどうすんの、って一人でテンパっていると浅羽くんはやけに自然に私の隣を歩いた。ああこれはやっぱり一緒に帰ってくれるつもりなんだ…嬉しいよりも気まずいんですけど。



「なんかすみません」

「いえこちらこそ…千鶴が迷惑かけてるみたいですみません」



本当になんだこの空気。橘くんに迷惑かけられてるのは本当なんだけど、それを浅羽くんに謝られるなんて思ってなかった。っていうか思うわけないよね。謝られる必要もないしね。



「千鶴と仲いいんですね」

「仲良くないよあの人自由すぎるよ」

「ああ…確かに」

「……今回もさ、なんか、ごめんね、わざわざ一緒に帰ってくれなくて良かったのに」



ああもしかして今、結構普通に話せてるんじゃない?私にしたら進歩なんじゃない?あいつのお陰だとは思いたくないけど、まぁ嬉しいのは嬉しいわけだし。いや、それより気まずいんだけど浅羽くん意外と普通だし。普通すぎてさ、なんかもう私が告白したことなんかもう忘れてるんじゃないの、ってくらい。実際そうかもしれないけどさ。それはそれで有り難いような悲しいような気もするけど。



「千鶴が最近よく話してて。クールだけどよく喋るし要っちみたいな子だよって」

「橘くんの相手してたら誰でも塚原くんみたいになるでしょ」

「まぁ要はもう病気ですけどね」

「私も病気になりそうですけどね」



橘くんの事を思うと気分も滅入ってくる。いや別に嫌いって訳じゃないんだけど、でも好きかと聞かれるとそれも微妙だ。友達かと聞かれたらそれも微妙で、でもあんだけ話したり一緒にご飯も食べてるんだから友達なのかな。ああもうわかんないや、どうでもいいけど。いや、良くないか。



「あー、あの」

「なんでしょうか」

「返事した方がいいんですかね、今さらですけど」



いやまさか今この話題を振られるなんてね。一瞬で理解した私も私かも知れないけど、あの告白をえぐられているような気持ちにもなるよね。この際潔くフラれちゃった方がいいのかもしれないけどそんな勇気ないよね。もういいです忘れてください、そう言った私に浅羽くんもそうですねって返してくれた。それはそれで複雑。



「むむむさん、でしたっけ」

「あ…はいむむむです」

「とりあえずお友達から。始めませんか」

「……は、え?」

「いや、千鶴が言ってた通り面白い子みたいなんで」



いつも通り。少し丸まった背中で前を見ながらそう言った浅羽くんに私は何も言えず。友達、って、私と浅羽くんが友達ですか。それは、それで、どうしたらいいんだろう、って、ね。



「ぜ…是非!お願いします!」



欲求に忠実すぎる自分には呆れるけど。ちょっと笑ったように見えただけかも知れないけど、そんな浅羽くんは小さく頭を下げた。



「じゃあよろしくお願いします」



なんかよくわからないけど、どうやら私は浅羽くんと友達になれたようだ。これはさすがに橘くんに感謝しなくてはいけないかもしれない。仕方ないから次会ったとき、散々振り回されたことを考えると有り難うは言いたくないからジュースでも奢ってやろうと思う。


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