「いやぁ俺はね、むむむさんとゆっきーを応援したいわけですよ」



以前聞いたような台詞を口にしたのは何故か私の教室に来て目の前の椅子に座った橘千鶴だった。放課後教室に残って日直日誌を書いていた場面を見付かり、アッサリ彼に捕まってしまったのだ。逃げる術もなく私は彼の話を聞くことになる。っていうか彼の言うことはよくわからない。何なんだ応援してるって意味わかんないよ。終始苦笑いでドン引きの私に少しくらい気づいて欲しいものだ。



「あの橘くん。応援とかちょっとよく意味がわからないんだけど」

「そのままの意味だって、俺はゆっきーとむむむさんにお近づきになって欲しいわけ!」

「いやだからそれが意味わからないんだって」



グッと握り拳に力を込めた橘くんは相変わらずドヤ顔で何故か誇らしげにしている。ああもう早く帰りたいなぁ…。



「むむむさんゆっきーに告白したじゃん?けどゆっきーむむむさんのこと知らなかったじゃん?」

「ええああうんそうだねそんな事もあったね」

「だから俺はゆっきーとむむむさんがお近付きになったら面白いと思うんだよ!」

「面白いって聞こえたんだけど」



悪気もなくそう言った彼は相変わらずの勢いで喋りかけてくる。どうやら私の声は橘くんには届いていないらしい。まぁ私の友達もそうだから面白がるのは妥協するとして、やっぱりこの勢いだけは何とかしてくれないだろうか。…いや、勢いがあるからこそのこの行動なのかもしれない。納得出来すぎる。彼はきっと勢いだけで生きているに違いない。



「漫画みたいな展開になったら面白いじゃん!それにゆっきーのそういう話って全然無いからわくわくしちゃってさぁ!」



ああもう本当にドン引きなんですけど。初めてちゃんと話したのはついこの間の自販機の前で、今回のこの会話はまだ2回目の会話だ。会話っていうより橘くんの一方的なものなんだけど、何でこんなに馴れ馴れしいのか分からない。いい加減私が引いているのに気付いてくれないだろうか。忘れたい過去を無理矢理掘り返して進めようとするのは止めてくれないだろうか。



「テンション上がってるとこ悪いんだけどその件に関してはもうほっといて欲しいん」

「最終目標は二度目の告白!そしてあわよくば恋人同士!!」



ほっといて欲しいん、だけど。ほっといて欲しいんだけど。私の話を綺麗にスルーした彼にガックリと肩を落とすしか出来なかった。二度目の告白なんてありえません。恋人同士なんてもっと有り得ません。窓の外に浅羽祐希くんを見付けた橘くんは陽気な笑顔でじゃあ!と走り去っていった。もう二度と私の前に現れないでくれ、と願いつつ私も鞄を手に取った。


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