おめでとう、ってそれだけなのに。
言えないんだよなぁ。
告白するわけじゃないんだし、誕生日お祝いするだけなんだから何てことないはずなんだけど。
案の定、最後の休憩時間にもその言葉は言えなかった。
時間はもう放課後。



「私バイトだから帰るけど」

「…私も帰ろうかなぁ」

「何言ってんの、まだやらなきゃいけないことあるでしょ」



じゃあ頑張って!と私の肩に手を置いた岬ちゃんはそのまま笑顔で教室を出ていった。
今日は悠太くんは部活のようで、まだしばらくは帰らないと思う。
それまでまだ少し時間はあるんだけど、だけど待ったところで悠太くんに会えるかわからないし、言えるかもわからない。
なんでこんなにヘタレなんだろう、私。
おめでとう、くらい、簡単に言えるはずなのに。



「何してるんですか」



教室の机にうつ伏せになっている私に声をかけてくれた人。
顔をあげると、そこにいたのは祐希くんだった。
祐希くんも何してるのかわからないけど、悠太くん待ってるのかなって。



「祐希くん、おめでとう」



簡単に、言えるんだけどなぁ。
何を思ったのか祐希くんは私が座っている前の椅子に座る。
そして、右手を差し出した。



「ありがとうございます」



一瞬分からなかったけどすぐに理解する。
プレゼントは用意してなくて、ごめんねって言うとそのまま手を机に乗せた。



「誕生日なんだね」

「そうみたいです」

「もっと早く言ってくれたら良かったのに」

「メールとか?」

「メールとか」



そっか、と、机に置いてあった私の携帯のストラップを触り出す。
大したものは付いてないんだけど、祐希くんはじっとそれを見ている。



「じゃあこれください」

「…え、これ?」

「誕生日プレゼント」

「別にいいんだけど、え、祐希くんこのキャラ好きなの?」



首を傾げた祐希くんはそのままストラップを外した。
そして自分の携帯を取り出してそのまま私のストラップを移動させる。
祐希くんの携帯には何も付いていなかったらしく、ぶら下がった人形がミスマッチで可愛らしい。



「汚くてごめんね」

「いえ、来年期待してますから」

「来年かぁ…高校卒業してるけど、会えるといいね」



そうですねってゆっくり頷いた祐希くんに、ほんの少しさみしい気持ちになる。
高校生、最後の誕生日。



「うん、おめでとう」



最後だから。
最後だから、悠太くんにも、ちゃんと言えるといいなって、そう思った。


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