跡部景吾について、あれから私は少しずつ跡部景吾について知ることになる。知っていくにつれて気付いたことも沢山ある。たくさん、本当にたくさん。私は跡部景吾について何も知らなかった。知ろうともしなかったんだけど。別に興味ないから知りたいとも思わなかっただけだけど。



「お前俺のこと嫌いらしいな」

「え、うん嫌いだけど」



正面切って跡部景吾に言われた私のこの状況は何なんだろうか。更にそれに普通に返した私は一体何なんだろうか。微妙な沈黙の後、跡部景吾は口許を緩めて笑顔を浮かべた。え、何ちょっと意味が分からないんですけど何で笑ってんのこの人。あからさまに顔をしかめたのが自分でも分かった。怒りすぎて笑っちゃったんだろうか。



「ムカつくでしょ、ぶん殴ってくれていいよ」

「アーン?」



ちょっとくらい手加減してねって言うと跡部景吾は今度は声を出して笑い出した。と言っても跡部景吾と言えばの高笑いなんかではなく、笑いが漏れたって感じの自然な笑い。あ、なんか意外な笑い方、って少しだけときめいた。嘘、ときめきはしてないけど、なんかいいかもって。けど何で笑うのかは意味が分からない。面白いこと言ってないしやっぱり頭おかしいんじゃないのかって疑わずにいられない。



「俺のどこが嫌いなんだ?」

「全部」



さすがに少し苦笑いを浮かべた跡部景吾を見て何と無く思ったことは、なんだめちゃくちゃ人間らしいじゃんって。いつも偉そうなのかと思ってた。気に入らないことあったら何がなんでも自分の思い通りにしなきゃ気が済まないのかと思ってた。



「要するにお前は俺が羨ましいんだろ、違うか?」



何でそうなるんだ、と呆れた私を見た跡部景吾はまた笑った。
羨ましい?私が跡部景吾を?どうしてそうなったんだ。私はただ跡部景吾が嫌いなだけだ。どこが嫌いってそりゃもう全部。ルックスがいいとこ、頭がいいとこ、運動神経がいいとこ。モテるとこも実は真面目なところも全部。完璧過ぎるところがムカつく。



「そうかもね」



…―――なんて。本当は途中から何と無く思っていたこと。私はただ、跡部景吾が羨ましくて嫉妬して、ひがんでるだけ。私が持っているものも持っていないものも、跡部景吾は全てを持っている。それが嫌、っていうか、そう、羨ましかっただけ。案外アッサリ認めた私に跡部景吾はなんか不思議な表情を浮かべる。それから「素直か素直じゃねぇのか良くわからねぇ奴だな」って嫌みったらしく笑った。素直とか素直じゃないとかじゃなくて、本当はただ捻くれてるだけなんだけど。完璧過ぎるから嫌い。今までのに加えて性格もいいとかムカつく。跡部景吾といえば我が儘で傲慢で俺様で、それでいいのに協調性があって優しくてなんかヤだ。



「ムカつく」

「アァン?…言うじゃねぇか」



もしかしてめちゃくちゃ音痴かもしれないし、そしたら私は少しくらい跡部景吾を嫌いじゃなくなるかもしれない。欠点はないのだろうか。…いや、傲慢で俺様なのは十分に欠点なのか。そう考えると少しくらい嫌いじゃないかもしれない。嫌いだけど。



「けど、最初よりは嫌いじゃないかもしれない」

「…最初どんだけ嫌いだったんだよ」

「ごめん語弊があった。最初は嫌いじゃなくて好きじゃなかったの。それから嫌いになって、でも今はそれよりは嫌いじゃないかもしれない」



何言ってんだ私は。何をぶっちゃけてんのかもう分からないけど、跡部景吾は怒るでも呆れるでもなく意外と普通に聞いている。なんかもういいやって思ってた「じゃあそれだけ」って跡部景吾に背中を向けた。結局跡部景吾に嫌いだってことを伝えただけだったなと気付いたけどもう何でもよかった。嫌いな理由がわかった。跡部景吾が完璧すぎるからだ。あと少し跡部景吾の欠点を見付けたら私は今よりもう少し嫌いじゃなくなるかもしれないけど、そんな欠点あるのだろうか。



「俺はお前のこと嫌いじゃねぇぜ。好きでもねぇけどな」



後ろから聞こえてきたその声に笑うしかない。欠点を見付けたから。そうだ跡部景吾はバカなのだ。そう考えるとさっきよりもほんの少しだけ嫌いじゃなくなった気がする。気がするだけだけど。


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