朝学校に来てドキドキしながら下駄箱を開けたら何もなかった。ゴミとか山ほど詰め込まれてることを覚悟してたから意外だった。上靴の中にも特に画ビョウなんかは入っていなくて普通に履けた。油断しちゃいけないとドアの上を見ても黒板消しは挟まっていないしトイレに入っても水は降ってこない。これはちょっと古いかもしれないな。教室に入ったら最近日常となりつつ跡部景吾の話を聞かされたり、とにかくいつもとまるで何も変わりない日常学校生活を送れているのだ。もしかしたら跡部景吾の耳が悪くて昨日のうん嫌い発言は聞こえていなかったのかも知れないし忍足なんたらもこいつツンデレだなくらいにしか思っていないのかもしれない。いやそれはないか、多分。それともこんな愚民の言うことなんかいちいち気にしてねぇよってことなのだろうか。忍足なんたらから聞いてきたくせにそれは腹立つけど、とにかく何もなくて良かったと少しだけ胸を撫で下ろす。まだまだ油断は出来ないかもしれないけどその辺は気を付けようと思う。何かされても文句は言えないし。っていうのもおかしな話だよく考えれば。私は事実を伝えたまでで悪いことはしていない。跡部景吾に影響を与えるようなことは何一つしていないのだから。…ちょっとはしたかもしれないけど。



「あらまだ帰らないの?」



教室でそんなことを考えていたらもう外は真っ暗だ。確か前にも同じようなことしたような気がしてなんか何やってんだ私ってちょっと焦った。戸締まりの時間まで何してたんだよ本気で、と鞄を掴んですみませんでしたと教室を出た。外はもう薄暗い。やだやだ早く帰らなきゃと歩いているとどこからか聞こえてくる爽快な音。聞き慣れたこの音はあれだ、テニスのボールを打つときの音。練習熱心な部員もいるもんだなと興味本意でテニスコートを覗いてみるとそこには忍足なんたらを中心に他のテニス部員もいるらしい。やけに賑やかで楽しそうな声、気持ちいいくらいにラケットがボールを弾く音。
もう生徒は他に誰もいない。毎日こんな時間まで練習しているんだろうかと思うとそりゃ強いわうちのテニス部は、なんて事を思った。実際に試合とか見たことないからレベルとか知らないけど強いんだようちのテニス部。それは知ってる。



「何してんだアーン?」



後ろからの声にビクッと肩を跳ねさせて振り返ると予想通りの人物がそこに立っていた。アーン?なんて言う人私はこの世に一人しか知らない。ラケットが入っているであろう鞄を肩にかけポケットに手を突っ込みまるで上から見下すような視線にはやっぱり凄く腹が立つ。しかしその出で立ちはまだ制服姿で部活してましたっていう雰囲気は微塵もない。なんだこいつ今までサボってたのかと疑いの眼差しを向ければそれに気付いたのか鼻で笑った。



「俺もそこまで暇じゃねぇよ、生徒会だ。部活はこの時間から参加してんだよ」



ルックスも頭も育ちも良ければ勘もいいのかと少しばかり感心してしまったがそうですかとそれだけ言って私はその場を立ち去る。後ろからまた笑うような声が聞こえたがどうでもいい。こんな時間まで生徒会の仕事してるとかこれから部活とかなんかもう跡部景吾の真面目さが意外だった。それと同時に金もってんだから強いに決まってるとか思ってた私を殴り飛ばしてやりたくなった。金持っててテニス上手くなるならこの学校上手い人だらけだよ何で気付かなかったんだ私。お金積んでも上手くならない人はならないに決まってるし才能あっても練習しなきゃ上手くならないに決まってるんだ。勝手に全部をお金持ってるからって決め付けていた自分が恥ずかしい。恥ずかしすぎるし馬鹿すぎる。今度跡部景吾を見かけたら土下座でもしようかと思った。心の中でだけど。


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