ここ最近は跡部景吾の事を考えすぎたせいか、真っ先に頭に浮かぶのは跡部景吾の存在。決して恋心なんかではないし寧ろ私は跡部景吾が嫌いだ。跡部景吾の存在によって私の日常は少しだけだけど確実に変わってしまった。そこそこ仲が良いと思っていた友達が友達じゃなくなり、そこまで仲良くない子達にそこそこ仲が良いと思っていた友達の悪口を聞かされるようになり、周りの話題はいつも跡部景吾のことで、そして気付きたくなかった自分のリアルな存在価値を知る羽目になる。私の世界は跡部景吾によって少しずつ壊されていく。今までも決して居心地が良かったわけではないが、その変化も良いものではない。



「おい」



後ろから無駄に良い声で呼ばれて振り向くとそこには私の頭を嫌な意味で占領している奴がいた。跡部景吾だ。正直一瞬ビビったが何故私に話し掛けたのか疑問が浮かぶ。しかし跡部景吾が上から目線で差し出しているプリントを見てああ成る程。私は適当にどうもと言って受け取り直ぐ様背中を向けて止まった足を進めた。正直跡部景吾との接触はあれが初めてだ。しかし跡部景吾が私なんかのプリントなんかをわざわざ渡してくれるのは意外だった。別になくても困る物ではないし言っちゃえばゴミのようなプリント。常に前しか見てないような跡部景吾が下を向くこともあるのかと思った。いや、跡部景吾はいつも上から見下ろしているのか。そりゃ廊下に落ちたプリントも目に入るわけだ。



「おお跡部やっと見つけた」

「アーン?」



初めて近くで聞いた無駄に良い声での生アーン?の偉そう加減に若干の感動とそれ以上の苛立ちを感じつつ、私の横をすれ違っていく忍足なんたらの香水の匂いが残った。忍足なんたらと跡部景吾の声が廊下に響き渡る。二人のファンに教えてこようかこの状況を、なんて嫌味なことを考えながら私はさっき渡されたプリントを教室のゴミ箱に捨てるのだ。特に理由はない。強いて言うなら要らないものだったから。



「自分跡部嫌いなん?」



どこから現れたのかさっきすれ違ったはずの忍足なんたらがやけにドストレートな質問をぶつけてきた。忍足なんたらと話したことなんて今まで1度もないしこんな質問される筋合いもない。しかも忍足なんたらと跡部景吾は同じテニス部員でさっきも話していたように割と仲がいいらしい。笑うでも怒るでもなくその表情は読み取れず、丸眼鏡ダセェなんてどうでもいいことを考える。それにしてもそんなこと聞いてどうするんだろうか。まさか跡部にチクるつもりか、なんて思考より先に出てきた言葉。



「うん嫌い」



思った以上にアッサリ出た台詞に忍足なんたらは口元を歪めて笑った。あーあ言っちゃったよ、なんて少し後悔しつつ伝えたことは事実。もういい?と強気に出れた自分はすごいと思う。明日から学校中敵だらけかもしれない。うわ言わなきゃ良かった、と思いつつ教室を出る。ドアにもたれ掛かって腕を組む跡部景吾を見付けて案外普通に“私の学校生活もう終わったな”と思った自分のハートの強さを知った。


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