真夏の炎天下の中、大量の荷物を詰め込んだリュックを背負いながら山を登る。その量は男子よりは遥かに少ないものの、さすがに辛いものがある。森林の間には一応、木の板を敷き詰めたような歩道が整備されているがそれさえなんの気休めにもならない。疲れた、その一言に尽きる。至る部分を汗が流れ、耳から入ってくる蝉の鳴き声が暑さをより増幅させているようだ。正直、もう限界に近い。



「うおーい滝だ!!おーい!いっちゃい滝あるぞー!飲めっかなコレー!!」

「止めなさい奥村くん」

「何でアイツあないに元気なんや…」



その中で一人、声を張り上げて元気いっぱいなのは奥村くんだった。確かに小さな滝が岩から流れ出ていて、それは少し涼しげにも見える。だけど目的地はまだ少し先だ。…皆は平気なんだろうか、この暑さの中で。



「むむむさん平気?」

「…なんとか。志摩くんこそ大丈夫?」

「ギリギリやわ……それにしても奥村くん元気すぎへんか」



先陣を切って元気に歩いていく奥村くんを見ながら苦笑いを浮かべる。軽快な足取りは今にも奥村先生を追い抜かしてしまいそうな程。
そういえば奥村先生は真夏のこのくそ暑い中で、長袖でしかも真っ黒な分厚い教員用の制服を着込んでいる。額に汗は滲むが涼しげな顔で、後ろを気にしながら息も乱さず歩き続ける。



「…奥村兄弟恐るべし」

「元気やなぁ」

「奥村先生、眼鏡焼けとかしないのかな」

「……確かに。せやけどむむむさんからそんな言葉が出るとはなぁ」



なにか変な事を言った記憶はないが、志摩くんは私を見ながら笑顔を浮かべた。眼鏡焼けの心配は奥村先生だけじゃなくて三輪くんもだけど。



「目的地はもうすぐです。さぁ頑張りましょう」



奥村先生の声。もうすぐ、という言葉に僅かに生まれた希望。気合いを入れ直して足を進める。
流れる汗は止まらずに、朝イチで塗ってきた日焼け止めも直後に意味がなくなってしまったんだと思う。いつもよりうっすらと黒くなった腕を見て、誰にも気づかれないような小さな溜め息を溢した。


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