奥村くんはあれから、霧隠シュラと名乗った女性と奥村先生にどこかに連れていかれた。寮に戻ってくださいという指示を受け、私たちは一旦その場で解散。事情が分かっていない他の塾生たちの「何があった」の問い掛けに、私もしえみちゃんも何も答えられないままその場を離れることになった。

そんな騒ぎがあったのは昨日のこと。いつもと変わらない1日を経て、今日もいつもと同じような塾の時間を迎えている。



「おはよう」



いつの間にか私の席になっている志摩くんの隣の場所。隣とは言ってもひとつ空けた隣の席だけど、教室の端に座っていた頃の私にしてみればかなりの進歩なんじゃないだろうか。志摩くんはいつでもニコニコな笑顔で声を掛けてくれる。友達、と言うにはまだ少し遠いように思ってしまうけど、距離が縮まっているような気がして少し嬉しい気持ちもある。最近では三輪くんや勝呂くんも話し掛けてくれることがあって、まだ少し緊張はするけど、一人じゃない気がしてやっぱり、嬉しい。



「奥村くんは大丈夫なんやろか」

「……ど、う、なんだろ」

「アイツのことや、大丈夫に決まっとる」

「それにしても一体何があったんでしょうね」



独特のイントネーションにももう慣れた。3人はあの場に私が居たことを知っていて、だからこそ私に答えを求めているのかもしれないけど私はそれには答えられない。言いたくないわけじゃないし隠しているわけでもない。実際、私自身が何一つとして理解できていないだけ。感じる視線から逃れるように机にある教科書に視線を移すと、同時に勢いよくドアが開く音がする。魔印の授業を受け持つネイガウス先生、



「この度ヴァチカン本部から日本支部に移動してきました霧隠シュラ“18歳”でーすはじめましてー」



……だと、当然のように思っていたのだけれど。そこに現れたのはネイガウス先生とはまるで真逆の人。相変わらず下着のような服装で、派手な頭に先生らしくないその口調。そして昨日、奥村くんを連れていったその張本人―――霧隠シュラ、だった。


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