「無事全員候補生昇格…!おめでとうございま〜す☆」



陽気な理事長がそう言った。
みんな安心してる。喜んでる。私はなんだかやっぱり少し変な気持ちだったけど。



「フフフ…では皆さんの昇格を祝して…このリッチな理事長である私が皆さんに…もんじゃをごちそうします☆」

「もんじゃかい!!せめて焼き肉…」



有無を言わさず、そんな感じで近くのお店までみんなで歩いた。前を歩くのは奥村くんと杜山さん、後ろには三輪くんと志摩くんと神木さん、そして隣には勝呂くんがいる。



「やめてまうかと思ったわ」

「やめようかとは思ったよ」



一晩中考えた。命に関わる事なんてやりたくない。私が杜山さんみたいに変われるかはわからない。辞めたいこのまま普通の学生に戻りたい。そんな気持ちはやっぱり消えることはなくて。でも同時に、いろんな人の言葉を思い出した。奥村雪男に言われたこと、神木さんに言われたこと、それから、勝呂くんに言われた言葉を。
杜山さんみたいに変われるかはわからないけど、もしかしたらこんな自分から変わることは出来るかもしれない。



「手騎士やろ?」

「うん」

「お前に出来るかはわからんけどな」



まるで嫌味のような言葉だったけど、嫌な気持ちじゃなくて笑って返せた自分には驚いた。彼も一緒に笑う。
正直な話、何よりも一番の理由は彼――勝呂くんだった。しっかりせぇ、もそのひとつ。だけど本当はもっと違うところ。彼に怒られた事を思い出すと今でも少し怯んでしまう。あの顔とあの声で言われて怖くないわけがない。あれだけ言われて「候補生にはなりません」ってそんなこと言えるわけない。結局また流されただけなのかもしれない。それでも今、別にいいやって思ってる自分がいる。
命に関わる事って言われたって、そんな重み、正直よくわからないし。…本当はこんなの理由になってないのかもしれない。だけど別にいい。もう、行くとこまで行こうって思った。深く考えたって分からないんだから、だったらもういいんだ。うん、これでいい。



「むむむさんここ座り〜!」



志摩くんに呼ばれて隣に座らせてもらう。勝呂くんや奥村くんがもんじゃを焼いていき、私はそれを眺める。志摩くんがニコニコ話し掛けてくれて私はそれに答えて、ちゃんと会話になってる。当然の事なのにそれが何だか不思議に感じる。皆も一緒なんだ、って。祓魔師になりたい皆も、私と同じ年の高校生なのだ。



「そろそろ焼けるなぁ。奥村先生はラムネでええんか?」

「ええやろ、多分」

「……私、呼んでくるよ」

「ホンマ?ほな頼むわ」



椅子を立ち、外にいる理事長と奥村先生のところまで歩く。浴衣姿の理事長は椅子に座り、奥村雪男は隣に立っている。近い、けどそれが私を余計に緊張させる。心臓が速くなって、声を出すために息を吸うのだ。



「…――奥村先生」



ゆっくり振り返った時の彼の表情を、私はきっと忘れないと思う。口に含んだラムネがシュワッと弾ける。速まった心臓が、少しずつ速度を落としていく。


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