二度目に現れた真っ白な虎。その瞳はあの時と同じように私を捕らえている。怖くない、恐くない私は、大丈夫…――だいじょうぶ。
「神木さん!」
「やった……!?」
神木さんの白狐が屍を捕らえ、動きを止めることができた。だけどそれも一瞬、屍の手は目の前で詠唱を続けている勝呂くんに向かっていくのだ。
――ダメ、ダメだ何とかしなきゃ、助けなきゃ…――と、その瞬間、
「なんっ…なんちゅう奴や…!」
白虎は何の躊躇いも見せずに屍に飛び掛かっていた。全員が息を呑む、その時、部屋に眩しいほどの明かりが灯る。屍は凄まじい音を立てて壁に激突し、そして白虎が、消える。屍は直ぐ様体勢を立て直し、苦しそうな呻き声を上げながら詠唱中の勝呂くんに向かっていくのだ。
屍の手はしっかりと勝呂くんの頭と胸ぐらを掴み、一撃を与えようとしているのだろう。だけど彼も負けなかった。言葉は止まらない。屍を睨み付けたまま、声を張り上げるようにそれを唱える。
「“…その録すところの書を載するに……耐えざらん!!!”」
二十一章目のソレを言い終えた瞬間――パァン――そんな音を立て、屍は消えた。持ち上げられていた勝呂くんの身体が膝から床に落ちると、彼は小刻みに震えながら「しぬしぬしぬ」と、そんな風な言葉をこぼした。
「おい!」
その時部屋に入ってきたのは奥村くんだった。彼は屍を追い掛けていったにも関わらずピンピンした様子で私達を見回している。
「おおおおま…もう一匹は…」
「え…?ああ倒した!お前らも倒したのか?スゲーじゃ…………………え?」
「なん…なんやお前なんて奴や!!!!死にたいんかーッ!!!?」
勝呂くんが奥村くんに殴りかかっていった。床に叩き付けられた奥村くんは私の足下に落ちる。
「………あ…」
「…だ……だいじょう、」
「…………ぱ、んつ…」
「おっ…お前ーッ!!!!」
再び奥村くんに殴りかかっていく勝呂くんに、ほんの少しだけ感謝した。
「 ……――― 」
床に落ちていた紙切れを拾う。私のものであろうそれには小さな破れがあり、これで消えたのかとそう思う。
――あの時、私は何も言わなかった。何も唱えなかったし、何も口にはしなかった。だけど白虎は動き、確かに屍を突き飛ばした。もうよく分からない。使い魔ってそういうものなのか、と。そんな風に思いながら、次に現れたネイガウス先生と奥村雪男に視線を向けた。
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