勝呂くんと三輪くんの声が響き渡る薄暗い部屋。二人は座禅を組んだまま詠唱を続けている。杜山さんは静かに使い魔を操り、そして志摩くんは武器を構えてその時に備えている。



「坊は最後の章に入った…」



三輪くんの詠唱が終わり、あとは勝呂くんの声だけ。効いているのか効いていないのか、それはまだ解らないけど屍はついにすぐそこにまで来てしまった。



「杜山さん!」



――最初から頑張っていた杜山さんが、とうとう倒れてしまう。木のバリアが無くなった今、屍を阻むものは何一つ存在しない。覚悟を決めた志摩くんが屍に攻撃を仕掛けて時間を稼いでいる。
私は倒れた杜山さんに近寄り手を伸ばしてみると、浅い呼吸を繰り返していた。神木さんも心配そうに近寄ってきて、言葉を探りながら杜山さんに声を投げ掛けている。杜山さんはゆっくり、小さく言葉を紡ぐ。耳を澄まさないと聞き取れないようなそれに、私と神木さんはそっと耳を傾ける。



「………きょうは…いつもの神木さんじゃない…みたいだ、ね……大、丈夫…?」



むむむさんも大丈夫?怪我してない?――なんて。弱ってる自分より、ピンピンしてる私たちの心配。神木さんは前傾姿勢になっていた上体を起こして、何度も深く息を吸った。志摩くんの方ももう限界らしい。どうしようどうなっちゃうの、そんな私の思考は、神木さんの言葉に叩かれて消える。胸ポケットから出した魔法円の紙をはらりと落とし、二匹の白狐を呼び出して見せた。



「あたしに従え!!」



彼女の声が大きく響き、神木さんは戦闘体制に入る。大きく息を吸った彼女の視線が次に捕らえたのは私の目だった。



「ボーッとしてないでアンタも、っ…アンタも何かしてみせなさいよ!!」



ビクッと肩の跳ねた私を見た彼女は一層に眉間にシワを寄せ、大きな瞳で私を睨み付ける。…何かしてみせなさいよ、と言われたって私に何が出来るのかわからない。使い魔?出せる、だけど操れなくちゃ何の意味もない。胸ポケットに入れている紙切れを出す勇気は……やっぱり、



「…――っ、私はアンタのそう言うところが大っ嫌いなの!しっかりしなさいよ!!」



…――ない、なんて。そんな弱音、言っている場合じゃないんだと気付く。投げられた言葉は予想以上に私にぶつかってきた。胸がドキドキしてる。“出来るのか”じゃなくて“無理だよ”そんなんでもなくて“やらなきゃ”いけなくて。ポケットに手を伸ばし一枚の紙切れを取り出した。久し振りに見た紙切れに、あの時の恐怖心が甦ってくる。あの時、あの瞬間のあの白虎の瞳。考えると嫌になりそうで――――だけどそれじゃあダメなんだって本当は分かっている。皆が頑張ってる中で私だけが見てるだけなんてきっと、許されることじゃない。

『しっかりせぇ』
『自信が足りない』

あの時の勝呂くんの言葉や、奥村雪男の言葉を思い出す。もう覚悟を決めるしかないのかもしれない。逃げてばっかりじゃいられない。
大きく息を吸い込んだ。気持ちを落ち着かせそっと目を瞑る。



『Viens avec moi.』



次に目を開いた時に怯まないように。私は大丈夫、私は、出来る!そう胸に言い聞かせ、あの呪文を口にした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -