家の側には山があり、少し歩けば海がある。
もっと言えば、周りには山しかなくて見渡す限り緑色。
まるでジブリ映画のような、草を掻き分ければトトロがいるんじゃないかって、そんな世界に私はやってきたばかり。
「あ、なるちゃん」
「むー!」
家の前をタタタッと走る小さな女の子。
いつも同じ様に結ばれた髪の少女の名はなるといい、いつも元気だけど今日も相変わらずのようだ。
「おはよう、どうしたのそんなに急いで」
「先生を怒らせちまったんだ!」
「先生?教頭先生?」
「そうじゃなくて、先生!なぁ一緒に来てくれよ!」
「え?え、どこにっ…」
ぐいっと私の手を引いて、彼女は再び走り出す。
私の手を掴んだ反対側の手には何かがしっかりと握られている。
いつも明るく、ペースを崩さない彼女が珍しく焦った様子を見せている。
どこに向かうのか、わからないまましばらくそのまま海の見渡せるの道を走る。
「先生だ!」
なるちゃんの足が止まり、視線の先を辿っていくとそこには見慣れない青年の後ろ姿があった。
とは言ってもここに来てから1ヶ月程しか経っていないから、よく分からないんだけど。
鼻歌を歌いながら、彼はゆっくり立ち上がる。
「ちょっとセンチメンタルになっちまったな」
「そーか」
振り向いた彼は私となるちゃんを見るなりピタリと動かなくなり、そのまま木の柵の前に座り込んだ。
独り言を聞かれたのがショックだったのか、恥ずかしかったのか。
少し赤い耳を見ればそれが後者だったんだと直ぐ様気づく。
なるちゃんは私が手を離し、彼の元へと歩みを進める。
先生とはこの人のことのようで、手に握りしめていたそれを差し出して会話を進めていく。
どうやら喧嘩をしていたらしい。
仲直り、と手を繋いだ彼らに微笑ましさを感じて胸がじんわりあたたまる。
「えーっと、あなたは…」
「むーだ!むーはなるの友達だ!」
どうもと頭を下げた彼に私も同じ様にぺこりと頭を下げる。
先生の手を握っていない方の手でまた私の手を繋ぎ、行くか!なんて言いながら私と先生の腕を引いて歩き出した。
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