廊下を歩く。
悠太のクラスは移動教室だっけ、そう思いながら欠伸を一回。
「祐希くん」
「…?」
後ろから声を掛けられて、振り向くと悠太のクラスのむむむさんが立っていた。
あんまり話し掛けられることが無い人で、何だろうっていう疑問が浮かぶ。
なんかしたっけ、なんか、忘れてたっけ。
むーさんはブレザーのポケットから携帯を取り出して、それ自体を俺に見せるように控え目に持っている。
一瞬意味がわからなかったが、そこに貼られているシールに気づく。
…あ。
「……もしかしてもう集めてな、い…?」
正直、そんなのもう忘れてた。
微妙な感じになる。
ごめんねなんでもない、それならいいの、って焦ったように言葉を繋ぐ。
もういらない、と。
そんなこと言えない。
せっかく、わざわざ声までかけてくれたのにいらないとか、ね。
「あの」
「…はい?」
「もらっていいですか」
一応、と付け足して彼女を見ると、驚いたような困ったような、それでも嬉しそうな笑顔を浮かべた。
…シールもらうだけ、なのに。
しかももらうの俺なのに、くれるのむーさんなのに。
ポケットから携帯を取り出して、彼女と同じように携帯にシールを並べて貼った。
「ごめんね気遣わせちゃって…」
「だから謝らなくても…」
「ありがとうもらってくれて」
「…いえ」
その時耳に入ったチャイムの音。
あの、じゃあ…なんてぎこちない別れで、彼女は急いだ様子で廊下を掛けていった。
…―――どうしているだろうか。
元気にやっているとは思う。
根拠もなにもないけど。
何と無く今さらそんなことを考えながら、もう先生も生徒も全員揃ってる教室にゆっくり足を踏み入れた。
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