ネイガウス先生の授業が終わり、次は聖書:教典暗唱術っていう私が一番苦手な授業だ。
「大半の悪魔は“致死説”という死の理…必ず死に至る言や文節を持っているでごザーマス。詠唱騎士は“致死説”を掌握し詠唱するプロなんでごザーマスのヨ!」
詠唱騎士、通称“アリア”と呼ばれるそれの勉強なんだろうが私にはサッパリ。暗記は苦手だ。歴史とかそういう暗記はまぁまぁできるけど、この勉強の暗記は聞き慣れない文でよくわからない。振り仮名があっても難しい漢字の読みとか、なんかよくわからない言葉の言い回しとか。とにかく苦手なのだ。
宿題があったらしい。そんなのすっかり忘れてたけど、当てられたのは神木さんで内心ホッとした。
「“…神よ 我汝をあがめん 汝…我をおこして……我のこと……”」
神木さんの言葉が詰まる。そして「忘れました」と彼女らしくない言葉が続いた。代わりに当てられたのは勝呂くん。よかった私じゃなくて…そう思いながら斜め前にある勝呂くんの背中を眺める。彼はスラスラ、考えたり詰まったりする様子もなく言葉を述べていった。
「素晴らしいでごザーマス勝呂サン!完璧でごザマス!」
「スゲー!!お前本当に頭良かったんだな」
「本当にって何や!?」
奥村くんと杜山さんは拍手をして、目をキラキラさせながら勝呂くんを眺めていた。
「すごいやろ、坊は」
「……うん…凄い」
私だって同じようにそう思ってる。凄いよ、ほんとに。本当に。問い掛けてくれた志摩くんに言葉を返すと、彼はへらっとした笑顔を浮かべた。愛らしい、というのだろうか。私には出来ない、そんな表情が何だか少し羨ましい。
「暗記って何かコツあるの?」
「あーコツ?コツか〜」
「……暗記なんてただの付け焼き刃じゃない!」
コツ、聞けるものなら聞きたい。だけど勝呂くんの言葉を遮ったのは神木さんだった。睨むように勝呂くんに視線を送り、それに反応する勝呂くん。二人の言い合いはここから始まっていく。チャイムが鳴り先生のいない教室に、二人の叫ぶような声はめいっぱいに響き渡る。
「あたしは覚えられないんじゃない!“覚えない”のよ!!詠唱騎士なんて…詠唱中は無防備だから班にお守りしてもらわなきゃならないし、ただのお荷物じゃない!」
「なんやとお…!?詠唱騎士目指しとる人に向かってなんや!」
どんどんヒートアップしていく二人の言い合い、喧嘩。神木さんの言う事はよく分からないけど、彼女が彼に言った言葉は酷く辛辣なものに聞こえた。前に三輪くんが言ってた、勝呂くんは詠唱騎士を目指している、って。
「人の夢を笑うな!!」
響く言葉。勝呂くんの怒りはどんどん増していき、神木さんはそれをさらに煽るという悪循環。
空気が悪い。重い。勝呂くんが神木さんの胸ぐらを掴んだ。神木さんが腕を振る。手のひらが捉えたのは勝呂くんの顔でなく、奥村くんの頬だった。
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