気分が乗らなくても行きたくなくても、合宿に参加している今現在そこに行かないという選択肢はない。制服に着替えてため息をついて、必要なものを鞄に詰めて部屋を出る。重い腰をあげるっていうのはこう言うことだろう。本当に腰が重い気がしてくる。
鍵を開ける前、塾のドアを開ける前に一度ずつ大きな溜め息を吐いた。幸せが逃げるよなんて言われようがなんだろうが、そもそも高校生になってから私に1つでも幸せだと思えることがあっただろうか。そう考えると尚更、幸せって何だっけって何度も溜め息だ。



「何や入らへんのか」

「…っ……入、ります…」



いきなり。後ろから聞こえた声に肩が跳ねて、振り向くと勝呂くん志摩くん三輪くんの三人がいた。私の反応が可笑しかったのか、志摩くんは口元を袖で隠して笑っている。バクバクする心臓を抑えるようにドアを開けて、いつもの場所に向かう為に視線を下げて方向転換。…――しようとすると、私の腕を引いた志摩くんが不思議そうに私を見ていた。



「一緒に座ったらええやん」

「……え、」

「そんな端に座る必要ないやろ?それに解らんとこあったら坊に聞いたらええしなぁ」



笑いながらそう言う志摩くんに、何やねんと文句を言いつつ来ぇへんのかと私を待ってくれる勝呂くん。腕を引かれるまま私は志摩くんの隣、三輪くんの後ろに座る。囲まれる威圧感に少し怯みながらも、ニコニコ話し掛けてくれる志摩くんに言葉を返した。会話っていう会話。友達ってこんな感じだったっけなぁ、って。
ネイガウス先生の授業が始まった。厳格な空気で先生の低い声がよく響き渡っている。黒板に図を書いていく先生の後ろ姿と、それらしくなっていく魔法円を何度か見比べる。



「この魔法円のぬけている部分を前に出て描いてもらう…神木」



先生は神木さんの名前を呼ぶが、彼女は反応を見せない。もう一度強めに名前を呼ぶと、神木さんはハッとした様子で「聞いていませんでした」と言った。いつも真面目で完璧な神木さんがどうしたんだろう、と思いながら視線を逸らしていくと今度は私がネイガウス先生と目が合う。ドキッとした。嫌な予感。



「ではむむむ、続きを」



……やっぱり、だ。一応考えてみるけどわかるわけない。同じような魔法円が沢山あるのにひとつひとつ覚えてなんかなくて、っていうか未だに全部同じに見えるくらいなのに。



「……わかりません」



先生はなにも言わず、次は勝呂くんが当てられる。見事に記していく彼を素直に凄いと思うし、反対に自分の出来なさ具合にいっつも居心地が悪くなるっていうか。



「気にせんでええって、俺もサッパリやし」



右側にいる彼が笑いながら言う。嬉しい、ような複雑な気持ち。自分が思っていたよりもずっと素直じゃない事に気付いてまた、少し寂しい気持ちになった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -