目の前には一枚のプリント。



「ど、どうしましょう…!」

「どうするもこうするも謝るしかねーだろ」

「ほら千鶴が調子に乗るからだよ」

「なっ、何で俺ばっかり!」

「だって君のせいでしょう」



この5人の誰のものでもないそのプリント。
何故かジュースまみれになっているそのプリント。
何故か、っていうか。
祐希と千鶴がじゃれあって、要を怒らせた結果がこの大惨事なわけだけど。



「もうすぐ戻ってきますよね」

「先生の用事もすぐ終わるだろうしな」

「あーあ、どうすんのこれ」

「だっ…謝れば大丈夫だって!むむむさんいい人だし!優しいし!」

「優しい人ほど怒ったら怖いって言うけどね」



多分、彼女は怒りはしないだろうけど。

元々このプリントを借りたのは千鶴と祐希で、俺と要と春は朝のうちに提出済み。
数学だから要でも解けるんだしそうすればいいんだけど、何せ提出してないと気付いたのがついさっきの事。
千鶴も祐希もやる気はない。
だったらもう不可能。
そこに、たまたまいたむむむさんが、たまたまプリントを提出しようとしてて、たまたまそこにいた祐希と千鶴がプリントを借りたっていうのが発端。
結果がこれだけど。
オレンジジュースまみれ。



「あれ、どうしたの?」



…あ、来た。
用事を済ませたむむむさんが教室のドアを開けて入ってきた。
明らかに怪しい俺ら5人の行動を見れば気になるのも当然だと思うけど。

すぐそこに近付いてきて、ああもうバレるなってそんなとき。



「ごめんなさい!!」

「…ごめんなさい」



千鶴と祐希が謝った。
机の上に置かれたプリントを見て理解してくれたのか、一瞬苦笑いを浮かべた彼女が笑顔を浮かべる。



「大丈夫だよ、なんとかなるよ」

「っつってもこれじゃあ…」

「乾かせばなんとかなるんじゃないかな」

「いやあのそんな問題ですか…」

「よしっ、じゃあ乾かそう!要っち下敷き!!」

「え、あのホントにそれでいいんですか…?」



大丈夫だよたぶん、と。
笑ってるむむむさんを見て、やっぱり許してくれたっていうのともうひとつ、意外とこういう子なんだっていうのを思った。



笑って許してくれる安心



理由を説明したらさすがに呆れられたけど、乾かしたプリントはそれでオッケーだった。
大丈夫だったね、と。
笑った彼女の心の広さを見た気がする。


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