夕食は食べやすいようにと薄味の和食を持ってきてくれた。だるい身体を起こして食べたそれは凄く美味しかった。それから食後の薬を飲むと、眠気はすぐにやってくる。布団に入ってから意識を手放すまでは一瞬だった。
朝、起きると身体は軽い。熱も下がっているみたいでもうすっかり元通りに元気。奥村雪男が包帯を変えてくれると言ってくれたけど時間はまだ早い。先に顔だけでも洗っておこうとゆっくり起き上がって、手洗い場へと続く階段を下りた。



「…あ……おはよう」

「あ?…ああ、おはよう」



水道には既に勝呂くんがいてそこで顔を洗っていた。振り向いた彼は驚いたように私を見てから、肩にかけていたタオルでそっと顔を拭く。



「もうええんか?」

「うん、もう大丈夫」

「まぁ顔色もええみたいやしな」



私を見てそう言った彼は強面の割には凄く優しい人だと思う。話したことは余り無いが、面倒見がいいっていうのはこの前マイスターについての説明をしてもらったときに気付いた。



「…―――むむむさん、称号は決めたんか?」



その言葉に一瞬固まり、視線を少し逸らしてしまう。まだ決めてないし、訓練生になるかどうかも正直微妙なところ。悩む私を見た彼は分かるくらいハッキリため息を吐いた。



「何を迷っとるんや」



突き刺さるような視線と言葉。私の言葉を待っているのかもしれない。迷ってることなんか山ほどある。私は勝呂くんみたいに頭よくなくて塾も学校も成績は伸びないし、志摩くんや三輪くんのような友達もいないし、何より彼のように熱い気持ちなんて持ち合わせていない。結局全ては流れのままで、勇気がないから辞められない。それだけ。



「……私、多分向いてない、祓魔師っていう、器じゃない…」

「……あんだけ立派な使い魔出しといて祓魔師に向いてないとか、よう言えたな」



思ったより刺のある言葉に息が詰まるような気持ちになる。恐る恐る見上げた彼の視線は、いつにも増して私を睨み付けるように鋭かった。



「天性の才能いうんは、元々ない奴がいくら勉強して努力したってどうにもならん。欲しくても手に入るもんやない。お前はそれがあるんや。それで向いてない、言うんは俺にとっては自慢と侮辱にしか聞こえへん。ここにおる奴は本気で祓魔師目指してる奴らばっかりや…―――しっかりせぇ」



バシンと結構な力で叩かれた背中に熱が集まる。そして思い知らされる、自分の甘え。いつもそうだった。何もしてないのに私には出来ないと決め付けたり、苦手だと決め付けて避けて通ってきたり、自分の気持ちを伝えるのが怖くて流されてばっかりで。それで良かった。困ることはなにもなかった。少なくとも、今まではそうだった。

『…―――しっかりせぇ』

頭をめぐるのはその言葉。しっかり、って何だろう。私は何をすればいいのだろう。
今まで言われたって軽く聞き流してきた言葉が、こんなに重くのし掛かってくるとは思わなかった。こんな気持ちは初めて。焦ってる。怖い。それから不安。どうすればいいのか分からないまま、私は一人大きな溜め息を漏らした。


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