縮まるより先に広がる距離。勇気も希望も目的も、今の私にはなにも見えない。
今日は少し早めに塾の教室に辿り着いた。教室に入るとそこには勝呂クンと三輪クンと志摩クンがいて、あとはいつもフードを被っている山田クンがいる。三つの視線を感じて変に緊張しながらいつもの席に向かった。机に鞄を乗せて無意味に携帯を開いてみる。届いたメールはほとんどがメルマガで残念な気持ちになって小さく溜め息。楽しいことなんか、何一つ、ない。
「むむむさん?」
上から降ってきた声に驚いて携帯を閉じて見上げると、ピンク色にたれ目がちの彼がニコニコしながら私を見ていた。
「え、と……志摩、くん?」
「そう、志摩や。志摩廉造言うねん、宜しゅうな」
笑顔を絶やさない彼に小さく頷くと、彼はしゃがみこんで机に顎を乗せて今度は私を見上げるかたちになる。
「あんま話したことなかったやん?せっかく同じ塾通っとるんやし話そうや」
いきなり話しかけられるとどう反応していいのかわからなくなる。取り敢えず首を縦に振って見せると彼はまた満足そうに目を細めた。
「むむむさんは何目指してるん?」
「何…って……」
「称号。マイスターや」
称号・マイスターとまた知らない単語に小さく首を傾げると彼は不思議そうな顔をした。困った私はどうすることも出来なくて何を言うことも出来なくて、ただただ視線を泳がせた。気づいた彼が、小さく目を見開いてゆっくり口を開く。
「…――もしかして知ら…」
「はい皆、席について」
奥村雪男が入ってきて皆を席に促した。志摩クンは奥村雪男に視線を向けると立ち上がり、頭をかいて自分の席に戻っていった。
知らない、そう言えば彼はどう思うだろうか。祓魔師を目指す者が知らなくてどうするんだ、なんて思われるかも知れない。…今が辞めどきなのだろうか。ますます居辛くなるような気がして、また少し胸がキュッと締め付けられた。
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