綺麗なジャージを上下に纏い、今は安全な場所で奥村燐と勝呂クンが蝦蟇――リーバー――に追いかけられている姿を見守っている。巨大な蛙のようなそれには頑丈な首輪がつけられていて、担当の先生がしっかりとそれを操っている。二人は犬猿の仲のようで、最近は見るたびに喧嘩や言い合いをしているように見える。主に相手を嫌っているのは勝呂クンにも見えるが、彼は私の事も同じように嫌っているのかもしれない。仕方ないけど。私はきっと奥村燐以上に意識は低い。嫌々、仕方なく、そう言ったって過言ではないだろう。
授業中にも関わらず教科担当は用事があるからとこの場を去っていく。すぐに戻ってくるらしいが奥村燐と勝呂クンの喧嘩が始まるには充分な時間だったらしい。なんかもう全部どうでもいい。



「…俺は」



勝呂くんが坂を駆け降り、檻に入れられていない蝦蟇の前に立った。



「俺は!サタンを倒す!!」

「ブッ プハハハハハハ!ちょ…サタンを倒すとか!あはは!子供じゃあるまいし!」



勝呂クンの言葉を、神木出雲が笑い飛ばした。笑っているのは彼女だけじゃない。よく勝呂クンと一緒に居る志摩クンや三輪クンもまた、口元を押さえるようにして笑っている。
サタンが何なのかどんなものなのかは知らないが、それが祓魔師になりたいという理由にはならないのだろうか。真剣な彼の声を私は聞いた。笑うような場面ではなかったはずだ。…――私がなにも知らないだけかもしれないけど。
蝦蟇は勝呂クンに襲い掛かった。それを助けたのは奥村燐だった。蝦蟇にかぶりつかれた奥村燐に、神木出雲や朴さんの悲鳴が響き渡る。だけど平気だった。彼から離れた蝦蟇は怯えるように奥村燐の後ろに下がった。そして彼もまた言った。



「サタンを倒すのはこの俺だ!!!!てめーはすっこんでろ!」



私には知らないことが多すぎる。勉強したって追い付かない知識もたくさんあって、それを知るきっかけが私には未だ見つからない。知りたいわけじゃない。だけど皆は知っている。同じ位置に居るはずのみんなは私よりずっとずっと先を歩んでいる。やめたいっていうその気持ちの奥に、取り残されている孤独感が徐々に広がりを見せ始めていた。


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