教室に着いてこの間と同じ廊下側の一番後ろで隅の席に腰を下ろす。きっとここが私の定位置になるであろう場所、机をそっと撫でた。出来ればもう来たくないけどそんなわけにもいかないだろう。サボる勇気もなければ辞めたいと言う度胸もない。もうどうしろっていうんだ。悪魔が見えるようになってしまった今、もう私も祓魔師になるしか道は残っていないのかと思うとまた胃がギュッと締め付けられた。



「新しい塾生の杜山しえみさんです」

「よ…よろしくお願いします」



授業の始まりはそんな声だった。杜山しえみと呼ばれたその子は柔らかい黄色のボブ頭で、髪色には似合わないはずの和服を身に纏っていたがそれはそれでお人形さんみたいで可愛らしかった。彼女は一番前の席、先程自己紹介を済ませた奥村燐の隣に腰かける。見た感じ既に仲は良さそうだ。
始まった授業の悪魔薬学の悪魔の部分に関してはやっぱりイマイチだったけど、薬学の方ならまだ学園で勉強してる数字や記号の羅列なんかよりは分かるかも知れないと思うとほんの少しだけ勇気が沸いた。こんな勇気必要ないのかもしれないけれど。


( …… )


ふよふよと私の前を横切っていく一匹の小さな黒い生物。やっぱり本当に見えるようになったんだなぁと落ち込みつつ、恐らく悪魔であろうそれから少し身を引いて通り過ぎるのを待つ。しかし何故かそこでそれの動きが止まりこっちを振り向いた。小さいながらにちょっと怯む。しかし事態はそれでは収まらず、振り向いたどころか方向を変えて私の方に寄ってくるではないか。え、え、ど、どうするのこれどうしたらいいの、と何と無く手で払ってみるが離れていく気配がない。少し強めに叩いてみると思ったよりも横に飛んで少し焦った。



「魍魎ですね」



魍魎――コールタール――と呼ばれたそれを右手で握り潰した奥村雪男、彼はいつの間にか私の前に立っていた。びっくりして見上げていると彼は「心配しなくても最下級悪魔ですから危険はありません」と説明をしてくれて私は二度か三度、首を縦に振った。
本当に何やってんだろう、そう溜め息を吐きながら授業の続きをノートに写していく。何処に向かっているのだろう。何処に辿り着くんだろう――そんな不安な気持ちだけがどこまでも増していくばかりだった。


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