「はじめまして、対・悪魔薬学を教える奥村雪男です」



先生と呼ぶにはまるで相応しくない年齢の彼。確かに頭はいいかも知れないが彼はさっき新入生として代表の挨拶をしていた紛れもない同級生。彼に一体何を教わるっ……――――え?



「お察しのとおり僕は皆さんと同い年の新任講師です。…ですが悪魔祓いに関しては僕が二年先輩ですから塾では便宜上“先生”と呼んでくださいね」



聞きなれない単語に他の言葉が消え去ってしまう。悪魔祓い?エクソシズム?



「まず、まだ魔障にかかった事のない人はどの位いますか?手を上げて」



魔障?なにそれ、何?
キョロキョロ、数人しかいない生徒の内の3人が手を上げる。そしてさっき私が廊下で会った彼も同じように辺りを見渡している。どうしていいのか分からない私はスカートの上で手をギュッと握り締めて不安な気持ちばかりが大きく膨らんでいく。



「三人……むむむさんはどうですか?」



奥村雪男の問いにびっくりして、良く分からなくて返事に困っていると彼は優しく微笑んで「では4人ですね」と言った。どうやらその魔障とやらにかかったことが無いのだと彼は判断したらしい。意味はわからないけど知らないくらいなんだから、多分かかったことがないんだと私もなんとなくそう思う。
最初の授業は“魔障の儀式”らしい。授業が儀式って、何だかもう本当に意味がわからないけど周りの皆(廊下の彼以外)は普通にしているから間違っているわけではなさそうだ。…――だけれどさっきから胸を渦巻くこのグレーな感情は一体、何なのだろう。



「実はこの教室普段は使われていません。鬼族という悪魔の巣になっています」

「え!?だ…大丈夫なんですか…?」

「大丈夫です。鬼の類は人のいる明るい場所には通常現れません。イタズラ程度の魔力しか持たない下級悪魔なので…人が扱い易い悪魔なんです」



鬼――ゴブリン。悪魔、魔力、下級…―――悪魔。
ああそうだ、このグレーの感情を“嫌な予感”と言うのだ。否、もう予感でも何でもない。それはきっと嘘だと思いたくても信じたくなくても全てが紛れもない“真実”なのだろう。



「しかし動物の腐った血の臭いを嗅ぐと興奮して凶暴化してしまう。今回は鬼族の好物の牛乳で血を割って…10分の1に薄めたものを一滴あらして数匹の鬼を誘き出し…儀式を手伝ってもらいます」



皆が動じないのは最初からそれを知っていたからで、私が戸惑いや恐怖を覚えているのはそれを知らなかったから。悪魔祓い――エクソシズムに関して彼、奥村雪男は私たちよりも二年先輩だと言った。冗談だという空気はどこにもない。
胸がソワソワと落ち着かないまま奥村雪男は準備を始める。手に持たれている赤い液体は恐らく何かの血なんだろう。隣には1リットルの牛乳が置かれていて、ビーカーに並々とそれを注ぎ込んだ。


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