夏、本番。
一番後ろのこの席とももうすぐお別れなんだなぁと淋しくなりつつ、窓から他のクラスの男子がサッカーをしているのを眺める。
今は悠太くんのクラスだなぁって彼を探していると、目に入ったのは祐希くんの方だった。
風が吹いてて前髪は分かりにくいけど、いつも悠太くんに甘えてるのが祐希くんの方だからきっと今悠太くんに抱き付いてるのが祐希くん。
なんか貴重な場面を見ている気がして得した気分になった。



「ねぇ知ってる?4組にハーフの子が転校してきたらしいよ」

「そうなの?知らなかった」



ああなんかそう言えばさっき、金色頭の見たことない人がいたようないなかったような。
浅羽兄弟しか見てなかったからなぁ…ってそんな自分に苦笑いをしつつ、須藤さんは振り返って嬉しそうに話し始めた。
転校してきたのは今日なんだって。
須藤さんの情報が早いのか、私が知らなさすぎるのかはわからないけど。
ホントに全然知らなかった。

何もないまま放課後になり、今は教室に向けて足を進めている。
一旦は部室にも入ったけど、どうやら筆箱を教室に忘れてきたみたいでそれを取りに。
放課後だからもう廊下にも教室にも人はほとんど見当たらない。

(…静か、だ)

ぽつん、と。
何だか静かすぎてちょっと淋しい、かもしれない。
机から筆箱を取り出して、理由もないけどちっちゃくため息。
幸せ逃げちゃうなぁと思いながら今度は大きく息を吸って、部室に戻ろうと教室を出た。



「…あ」

「どーも…」

「なになに?ゆっきー知り合い?」



金色の頭。
やけにハイテンションの彼は、金色の頭に似遣わない橘千鶴っていう日本人の名を名乗った。
染めてるのかなぁと頭に目をやるけど、染めたばかりなのか地毛なのかはわからないけど、根元からちゃんと金色だった。(ハーフって言ってたし、地毛なのかな、きっと)
隣の祐希くんは眠たそうに、興味無さそうに欠伸。



「…そんな見られても」

「あ…ごめん。今日は結んでるん、だ…です、ね」

「日本語滅茶苦茶」



ほんとに滅茶苦茶。
だけど祐希くんと話してると、彼はよく敬語になるから私がタメグチでいいのかどうかってちょっと悩む。
悩んだ結果、もうわけわかんないことに。
呆れたみたいに小さく息を吐いている祐希くんと何故か笑ってるに、なになに?と興味を示す橘くん。
君、名前は?とその質問に名乗ると、何て呼ぼうかなぁと考え始めた。



「うん、ややこしいのはやめにしよう!普通にむーって呼んでいい?」

「あ…うん、いいよ」

「馴れ馴れしい…」

「ゆっきー嫉妬?俺のことは千鶴でもなんでも呼んでくていいから、よろしく!」



笑顔で差し出してくれた手をぎゅっと握ると、うふふってちょっと怪しく笑う。
あ、部室に戻らなきゃ、と。



「部活?」

「うん。…祐希くんもまた、よかったら顔出してね」



私しかいないけど、って付け足して、言い逃げみたいになっちゃったけど軽く手を振ってその場を離れた。
早く戻らなきゃ部室開けっ放しだ、って誰もいないからちょっと不安になったり。(盗るものなんて何もないだろうけど)



「むーまた明日なー!」



後ろで大きく聞こえた千鶴君の声に振り向くと彼は大きく手を振り、隣で祐希くんも小さく振ってくれてる。
時間差だなぁって思いながら私も振り返し、前を向く。
私はほんの少しだけ浮かれた気持ちで廊下を真っ直ぐに進んだ。


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